中露の非ドル化
https://tanakanews.com/210615dollar.htm
ロシアと中国が結束して、貿易などの国際決済のドル離れを進めている。
ドルの代わりに人民元やルーブルやユーロなどを使い、外貨の備蓄もドルや米国債でなく金地金などに替えていく流れだ。
これは中露がドルの基軸性や覇権を潰そうとする動きのように思えるが、よく見るとそうでなく、米国が中露に濡れ衣をかけて経済制裁してドルの利用を制限しようとするので、中露は仕方なく決済の非ドル化を余儀なくされている。
一見すると、中露はドルの利用を制限されて窮して弱体化させられているかのようだが、長い目で見ると、中露は人民元などドル以外の決済体制を確立し、ドルや米国覇権からの自立を強め、以前は全世界をおおう単独覇権だったドルや米国の範囲が狭まって米国の覇権が自滅的に縮小する流れになっている。
米国が中露のドル使用を制限する制裁をやるほど、米国の覇権が縮小し、中露が米国とは別の国際システム(覇権システム)を構築して多極化が進む。
敵性諸国のドル使用を制限する米国の制裁策・覇権維持策が、米国の覇権を維持するのでなく自滅させていく。
これは隠れ多極主義の典型だ。
トランプ前政権は隠れ多極の色彩が強く、トランプを(不正選挙で)追い出して作られた今のバイデン政権は、米覇権を自滅させる中露への敵視を弱めて中露と協調することが期待されていた。
だが実際は逆で、中露が決済通貨の非ドル化を加速したのは、今年3月にアラスカで米中が激突した外相会談や、今年2-6月に米国がNATOやG7を中露敵視の国際機関に変質させてからであり、それらはいずれもバイデン政権の政策だ(トランプはNATOやG7や同盟関係を嫌っていた)。
覇権放棄や多極化誘導をわりと明示していたトランプよりも、米覇権を強化するふりをして弱めて多極化をこっそり進めているバイデンの方が隠れ多極主義的だ。
中露の非ドル化促進によって今後ドルの国際地位の低下が進むだろうが、それはバイデンの「功績」である。
米国は今年3月、アラスカでの米中外相会談で中国を猛批判して怒らせて中国の反米ナショナリズムを十分に扇動した後、香港とウイグルの問題を理由に中国への経済制裁を強化し、国際的な銀行間送金に必須だった欧米中心の送金情報システムSWIFT(本部ベルギー)から中国を追い出す構想など、中国のドル使用を制限する制裁もやるかもと示唆した。
米国から反米感情を扇動されつつドル使用制限の脅威を与えられた中国は、これまで少しずつ進めてきた人民元の国際化やドル決済からの離脱を加速することにした。
国際決済にも使えるデジタル人民元の普及や、SWIFTの代わりに中国独自の銀行間送金情報システムであるCIPSを使うことなど、以前からの試みが強められた。
アラスカでの米中外相会談は、バイデン政権が中国を怒らせて米覇権やドル体制から自立させるために行われた観が強い。
バイデン政権の米国は、中国を怒らせ脅して決済の対米自立・非ドル化を進めさせると同時に、ウクライナ内戦を扇動したりロシア反政府活動家ナワリヌイを応援したりしてロシアを怒らせ、ロシアをSWIFTから追放するかもしれないと繰り返し脅し、ロシアと中国に、非ドル化や米国への報復する戦略をとらせて団結させた。
3月半ばのアラスカでの米中外相会談の激突後の3月末、中国とロシアは、ドルを使った米国からの不当な経済制裁の悪影響を薄めるため、結束して国際決済の非ドル化・人民元やルーブル利用、デジタル人民元の利用拡大を進めると宣言した。
さらにその後、今週英国で行われたG7が中露を敵視する色彩の会合になったため、それに合わせてロシアは自国の非ドル化を加速した。
ロシアの政府投資機関(NWF)は1860億ドル分の準備金のうち410億ドルが米ドル建てだったが、6月3日にロシア財務省が、このドル資産を1か月以内にゼロにすると発表した。
ドルをゼロにする代わりに人民元を急増し、ユーロと金地金も増やして、ユーロ40%、元30%、地金20%、円と英ポンド5%ずつの比率にする。
またこれより少し前、ロシア外務省は、米国がSWIFTに圧力をかけてロシアを締め出す制裁を強化した場合、ロシア中銀が持っている銀行間送金システムを中国、インド、イランなどの銀行間送金システムと連結して新システムを構築し、SWIFTを離脱するつもりだと発表した。
米国は以前からロシア制裁の一環としてSWIFTから追放させることを検討している。
米国は2012年にSWIFTにイランを追放させている(それは、イランが中国やロシアとの経済関係を強めて多極化を進めるだけの結果になっているが)。
米国は冷戦時代から、中国よりもロシアを敵視する傾向が強く、中国は米企業の儲け先だったので天安門事件など例外時以外は米国の敵視対象から外されてきた。
中国とロシアは、米国側の「文明の衝突」や「テロ戦争」に呼応するかのように、2000年にすべての国境紛争を解決して接近を本格化し、ユーラシアの多極型の地域覇権の基盤となる上海協力機構を作ったが、米国からの敵視に呼応して米国に報復したがるロシアと、米国との関係を穏便にやりたい中国との対米的な温度差が大きかった。
それが変わったのは2012年に中国のトップが習近平になって一帯一路など非米的・対米自立的な地域覇権構想を推進し始め、2016年にトランプが当選して米中分離の策をやり出してからだ。
この5年間で中国とロシアは、米国覇権の脅威に対抗する方向で団結を強めた。
明文化した同盟関係を好む米英と裏腹に、中露は結束を明文化していないが、実質的な同盟関係になっている。
ここ数年、中国とロシアは決済の非ドル化を3段階で進めてきた。
「権威」ある(笑)ワシントン・ポストによると、
第1段階は、中露間の貿易におけるドル決済を減らしてゼロにしていき、人民元とルーブルの相互通貨決済に替えていった。
第2段階は人民元の国際化を推進して世界の30か国との人民元決済の体制を作った。
2014年からはデジタル人民元の利用拡大を進めた。
そして第3段階は今年、中露がイランなど他の非米諸国とも連携してSWIFTに替わる国際銀行間送金のシステムを作っていくことだ。
デジタル人民元(など中央銀行によってデジタル化された各国の通貨)は、通貨を所有することで各人が中央銀行に口座を持ち、民間銀行を経由せずに通貨(口座)の保有者が中央銀行のサーバーを経由して直接に他人の口座に資金を送金するので、SWIFTなど銀行間の送金システムを使わない。
デジタル人民元(や他の国々のデジタル通貨)は、自国内で既存の紙幣や貨幣の現金に取って代わるものとして開発されているが、国際決済にも使える。
中国人民銀行にデジタル人民元の口座を作ることで、世界中の誰でも人民元を国際的にやりとりできる。
デジタル人民元など、人気あるデジタル通貨は、ドルに代わる国際通貨になれる。
しかも、既存の銀行システムを使わないので米国からの制裁も受けない。
ここから2つの分析ができる。
一つは、なぜユーロや円やポンドなど米同盟諸国が自国の通貨をデジタル化しないのかというと、それはドルに対抗する国際通貨になってしまうからだ。
同盟諸国は米国覇権=ドルに脅威を与えぬよう、通貨をデジタル化したがらない。
同盟諸国の通貨のデジタル化は今のところ「やってるふりだけ」だ。
米国覇権を離脱する意志を持ち始めた習近平の中国だけが、通貨のデジタル化を猛然と進めている。
ロシアやイランは、弱い自国通貨をデジタル化するよりもデジタル人民元を使ってみる方が現実的なので、今のところ自国通貨のデジタル化をあまり強く進めていない。
もう一つの分析は、通貨のデジタル化が進んで紙幣や貨幣が使われなくなると、民間銀行が業界ごと潰れてしまうことだ。
民間銀行の最も伝統的な業務は、多くの人手とコストをかけて紙幣や貨幣の流通を管理することだ。
そのために中央銀行など当局は民間銀行に「利ざや」の儲けを出させてきた。
しかし今や恒久的なゼロ金利で利ざやが失われている。
銀行は潰れていく方向だ。
デジタル通貨は、物理的な通貨の実体がないので、管理のための人手やコストが大幅に減る。
銀行強盗を防ぐための堅牢な建物や金庫も必要なくなる。
ATMも要らない。
銀行は、証券会社と同じ存在になる。
小売店の店頭のレジでの紙幣や貨幣の管理も不要になる。
すぐに銀行界を潰せないので、米国はドルを簡単にデジタル化できない。
他の先進諸国も同様だ。
中国は銀行も共産党支配下の公営なので、潰すしかないとなれば潰せる。
話を元に戻す。
中共は、人々の消費を増やすためにデジタル人民元に「有効期限」を設けるかもしれない言われている。
紙幣には有効期限などないから、中国の人々はデジタル元を敬遠している。
デジタル元の利用が急拡大していくのかどうか怪しいところがある。
しかし少なくとも、デジタル元を中国の法定通貨として正式に使用開始すると、一帯一路など非米諸国の政府機関や企業や個人がデジタル元を使用・備蓄できるようになり、アジア、アフリカ、中南米などでのデジタル元の利用が急増し、その分ドルの使用と備蓄が減り、ドルの基軸性=米国の覇権が低下する。
米国が敵性諸国をSWIFTから締め出してドル使用を禁じる制裁をやるほど、世界的にドルが敬遠されてデジタル元が使われ、ドルを使った制裁策が効かなくなる。
デジタル人民元の出現は、覇権面で画期的だ。
そのような展開になっても、金融市場では、ドルの為替低下や米国債の金利上昇、バブル崩壊が起こらないかもしれない。
為替や金利や株価は、金融市場での民間の需給と無関係に、米連銀など米欧日の中央銀行群によるQE策(通貨の過剰発行による買い支え)によって維持されている。
QEが行き詰まるまで、ドルや米国債や米国中心の債券金融システムは崩壊しない。
中国やロシアなど、世界の半分を占める非米諸国がドルや米国債を持たなくなっても、米欧側でQEが続いていたら、ドルや米国覇権の崩壊は起こらない。
私はリーマン危機後のQEが数年で行き詰まると予測してきたが、10年以上経ってもQEが何とか続いている(行き詰まり感はかなりあるが)。
QEはまだしばらく続くかもしれないが、同時に、世界が米国側(ドル圏)と非米側(デジタル元圏)に2分される「通貨の2極化」も進みそうだ。
ドル圏=米覇権の範囲は世界の半分に減っていく。
通貨の2極化は、多極化の一つの形態である。
インドやサウジアラビアなど、中国以外の非米諸国がデジタル通貨を作って国際化すると、通貨の多極化になる。
ドル=米覇権の崩壊より先に多極化が進む。
私はこれまで、ドルと米覇権の崩壊が先で、それが多極化につながるというシナリオを描いてきたが、順序が逆になるかもしれない(インフレ激化でQEが間もなく行き詰まり、多極化より先にドル崩壊になる可能性もある)。
ドイツなどEUが対米従属をやめるとユーロも多極側に入る。
日本は多分いないふりを続ける。
少し弁解的な分析をすると、QEが意外と長く続けられていることや、QEの行き詰まりによるドルのバブル崩壊より先に通貨の多極化が進みそうなことは、「私の予測の間違い」でなく「多極化を進めたい米上層部の隠れた勢力も、QEが数年で行き詰ってドルのバブル崩壊が起きてその後に多極化が進むと思っていたし、コロナの超愚策の都市閉鎖までやって経済テコ入れ策のQEを急増させたが、暗闘相手の米覇権延命派が意外とうまくQEを運営して対抗しているので、中露に非ドル化を進めさせ、ドル崩壊より先に通貨の多極化を進めることにした」のかもしれない。