シリア内戦の再燃?
https://tanakanews.com/241009syria.htm
イスラエルがヒズボラを猛攻撃して弱体化させている今年7月からのレバノンの戦争が、数年前から事実上終わっているシリアの内戦を再燃させそうな流れになっている。
イスラエルは9月27日にヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララら10人以上の将軍(軍幹部)を空爆で殺害し、兵器庫などの軍事拠点を破壊した。
その後、ナスララの後継者になったサイフディーンも、そのまた後継者も、イスラエルに殺害された。
('We killed Nasrallah’s replacement and the next in line,' Netanyahu tells Lebanese people)
(イスラエルのレバノン攻撃し放題)
ヒズボラは大打撃を受けている。
ヒズボラびいきのオルトメディアは、ヒズボラがレバノン社会に深く根ざしているので復活してイスラエルを占領の泥沼に陥れると勧善懲悪的に格好良く予測しているが、私はそう思わない。
(For Doubters - Hizbullah Reports That It Is Back)
(Israel seeks to fix 2006 failures, while Hezbollah lies in wait)
ヒズボラの復活には長い時間がかかる。
イスラエルは速攻でヒズボラの軍事基盤を大破壊しており、2006年に陥りかけた泥沼の占領に安易にはまり込むとは(今のところ)思えない。
(ヒズボラやイランの負け)
(ヒズボラの勝利)
ヒズボラはシリア内戦で、アサド政権を助けて活躍した。
アサド政権のシリア政府軍だけでは、米諜報界から支援されたISISアルカイダとクルド人の反政府軍に負けて政権転覆されていた。
アサド政権は、地上軍の部門でヒズボラ(レバノンのシーア派民兵団)とイラクのシーア派民兵団に支援されていた。
空軍の分野ではロシア軍がアサドを支援していた。
イラン系とロシアの支援が、2011年からのシリア内戦をアサドの勝ちで終わらせた。
米国は、アラブの春の流れで内戦を起こし、シリアを政権転覆してリビアやアフガニスタンのような恒久内戦に陥らせようとしたが失敗した。
(シリア内戦の終結、イランの台頭、窮するイスラエル)
シリア内戦は2017年ごろから終息段階に入っているが、ISなどの反政府勢力を監視するため、ヒズボラなどイラン系民兵団の多くが引き続きシリアに駐留していた。
だが今回、7月から激化してきたイスラエルからの大攻撃を受けて、ヒズボラの軍勢の多くが、本国を加勢するためシリアからレバノンに戻っている。
(進むシリア平定、ロシア台頭、米国不信)
イスラエルがヒズボラへの攻撃を強めるのとほぼ同時に、米軍の中東司令部が、シリアでのISの復活を宣言した。
米軍は表向きISをテロリストに指定して敵として掃討するふりをしてきたが、実際には、ISを作ったのも育てているのも米軍(諜報界)だ。
米軍は今年7月、シリアとイラクでISの攻撃が増えたと発表したが、急増したのはシリアでの攻撃だけで、イラクでは減っている。
(CENTCOM says ISIS is reconstituting in Syria and Iraq, but the reality is even worse)
シリアでは、政府軍を助けてきたヒズボラが出ていくと同時に、反政府なISが米軍の支援で蘇生して跋扈(ばっこ)し始めている。
イスラエル軍は、毎日のようにシリアのイラン系の兵器庫など軍事拠点を空爆している。
イランは、自国で製造した兵器類を陸路でイラク、シリア、レバノンのシーア派民兵団に供給してきた。
米イスラエルは、イラン系を弱め、ISを復活させてシリア内戦を再燃させようとしている。
(Israeli Jets Mount Another Attack On Damascus)
イスラエルとヒズボラの戦争が激化する前、シリア内戦に勝ったアサド大統領は、内戦開始時に追放されていたアラブ連盟に再招待されるなど、中東の国際社会の中で名誉回復していた。
アラブ連盟は、ヒズボラに対する敵視・テロ指定も解除して、ヒズボラとの関係正常化に乗り出していた。
(許されていくアサドのシリア)
(Italy Becomes First G-7 Country To Restore Ties With Assad)
だがこれらの関係構築は、イスラエルの攻撃によって破壊された。
サウジを筆頭に、アラブ諸国は、おざなりにしかイスラエルを非難していない。
皆、イスラエルから攻撃されるのを恐れている。
サウジなど湾岸産油諸国(GCC)は、イランとイスラエルの戦争が始まる中で、どちらも支持しない中立を宣言している。
どちらかを支持もしくは敵視すると、石油生産の拠点を空爆されかねないからだ。
(Saudis Declare Neutrality On Iran-Israel Conflict, Not Wishing For A Repeat Of 2019 Aramco Attacks)
アラブ諸国は、イスラム教の同志であるイランやヒズボラ、アサド政権などが米イスラエルに攻撃されて潰されても、何も言わずに黙っているだろう。
アサド自身も、イランやヒズボラに恩があるのに、イスラエルを非難せず黙っている。
非難すると空爆が激しくなる。
(Why has Syria stayed out of the Israel-Hezbollah conflict?)
イスラエルのヒズボラ攻撃がシリア内戦の再燃につながりそうな中で、最も劇的な姿勢の豹変・転向をしているのがトルコだ。
シリア内戦でトルコは、米国から頼まれて、米国が作った反アサドなISカイダ系のテロリスト集団を支援していた。
トルコは、隣接するシリアの国境地帯のシリア側(イドリブ、アフリン周辺)を占領し、トルコの諜報機関や軍が反アサドのISカイダ勢を支援する場所にしてきた。
ISカイダ勢はイドリブなどを拠点にシリアに出撃し、負けるとそこに戻ってきた。
(シリア内戦 最後の濡れ衣攻撃)
最終的に、シリア内戦がアサドの勝ち・ISカイダの負けで終息すると、トルコは負け組になり、イドリブに逃げ込んだ何万人かのISカイダと家族たちの面倒を永久に見る羽目になった。
トルコ当局は、行き場のないISカイダの人々を、難民を積極的に受け入れていた西欧に送り込んだり、ウクライナ軍の兵力不足を補う傭兵として送り込んだりして、人減らし・処理してきた。
ISカイダ系のシリア難民を受け入れた西欧では犯罪が増加し、難民を嫌う世論の増大が、右派(極右)政党を選挙で勝たせている。(西欧諸国に人権重視策として難民の積極受け入れを勧めて自滅させたのは米諜報界の隠れ多極派)
(シリア内戦終結でISアルカイダの捨て場に困る)
(The 'Birth Pangs' Of The New Middle East May Not Be The Ones The U.S. Has Wished For)
シリア内戦の負け組として苦労するようになったトルコのエルドアン大統領は、これまで敵視してきたシリアのアサド大統領との和解を模索するようになった。
トルコ政府は、分離独立を希求するクルド人に手こずって弾圧してきたが、シリアのアサド政権も、分離独立を希求するクルド人に手こずって弾圧してきており、エルドアンとアサドはクルド掃討で共闘できる(クルド人はトルコ、シリア、イラク、イランに分かれて住んでおり、各国で分離独立運動をしている)。
(Erdogan’s outreach to Assad may signal final curtain on Syria War)
だが、今春からイスラエルのヒズボラ攻撃が始まり、事態は転換した。
シリアでは、ヒズボラがレバノンに帰国し、米諜報界がISを復活させて、シリア内戦が再燃しそうだ。
最近、トルコ軍や諜報機関の幹部たちが、占領中の北シリアのイドリブやアフリンを見て回った。
トルコは、捨てていたISカイダのシリア反政府勢力を再びテコ入れしてシリア政府軍と戦わせる準備を開始している。
(Turkish Foreign Policy Shifts Amid Regional Escalation)
エルドアンは表向き、シリアのアサド大統領と会いたいと言い続けているが、裏ではアサド敵視の動きを再開している。
シリア政府は、もうエルドアンは和解する気がないとみている。
(Erdogan says ready to meet with Syria’s Assad, waiting for response from Damascus)
イスラエルは、昨年10月にガザで開戦した時から、ガザのハマスだけでなく、レバノンのヒズボラも猛攻撃して弱体化させ、アサド政権を潰すシリア内戦を再燃させるつもりで、それをトルコのエルドアンにも伝えてあったのでないかと思われる。
というのは、エルドアンがガザ開戦以来、表向きパレスチナを支持してイスラエルを強烈に非難しつつ、裏でイスラエルがトルコ経由で石油を輸入し続けるのを全く止めていないからだ。
イスラエルが消費する石油の4割は、アゼルバイジャンのバクー油田から、トルコの積出港ジェイハンまでパイプラインで運び、タンカーに積み替えてイスラエルに送られている。
(Activists in Turkey continue protesting Azerbaijani oil sales to Israel despite crackdown)
トルコがイスラエルを制裁するなら、何か理由をつけて石油の積み替えを止めれば良い。
だがトルコ政府は何もせず、放置している。
トルコ国内で、イスラエルへの石油を止めるべきだという政治運動が盛んになっても、政府は無視している。
エルドアンはイスラム主義者なのに、イスラエルのパレスチナ抹消を黙認している。
なぜなのか。そのわかりやすい答えが、イスラエルによるヒズボラやイランの弱体化で、トルコがISカイダを再支援してアサドを打ち負かし、シリア内戦で逆転勝利できるかもしれない、という今回の流れだ。
(Erdogan Calls For Greater Islamic Alliance To Combat Israeli 'Expansionism')
これからシリア内戦が再燃し、イラン系の軍事支援を受けられなくなったアサド政権が倒され、トルコが傘下のISカイダやシリア国内のムスリム同胞団に次の政権を作らせる。
そんなシナリオがうまくいくのか。
勝てるのか?。
その新生シリアは安定するのか?。
疑問は多いが、イスラムやパレスチナの大義よりもトルコの国益を重視するエルドアンとしては、黙っているだけでイスラエルがヒズボラを潰し、米諜報界がISを復活させるのだから、シリア内戦の再燃をやってみる価値はある。
シリア国民にとっては、せっかく安定しかけた自国がまた戦争に戻る、とんでもない惨事だが。
(こっそりイスラエルを助けるアラブやトルコ)
この話にはウクライナも絡んでいる。
シリア内戦に負けてイドリブ周辺で浪人生活しているISカイダの戦士たちを、トルコ当局がウクライナの依頼を受けて傭兵として送り込み、ウクライナ軍の兵力不足を補う事業は、今も続いている。
ウクライナ軍は特殊部隊をイドリブに送り込み、ISカイダ(Jabhat al-Nusraなど)に軍事訓練を施している。
ウクライナ特殊部隊とISカイダが9月にシリアに攻め込み、50キロ離れたアレッポ郊外にあるロシア軍の施設を砲撃した。
(How Will Turkiye Respond To War In Lebanon (And Renewed Destabilization Of Syria)?)
ウクライナ戦争とシリア内戦がつながっている。
ウクライナ当局は、アフリカのサヘル諸国にも特殊部隊を派遣して傭兵を集めている。
米欧がウクライナに支援した巨額資金の一部がイドリブに入り、ISカイダの訓練費や生活費になっている。
訓練したISカイダは、ウクライナとシリアの両方で戦う。
大量の裏金を持つウクライナ(と、その背後の米諜報界)を招き入れることで、トルコはカネをかけずにシリア内戦を再燃させている。
(Ukrainian Intelligence 'Actively Recruiting' Extremists In Syria's Idlib: Lavrov)
シリアのイドリブ・アレッポ地域には「白ヘルメット(White Helmets、シリア民間防衛隊)」というNGOがISカイダの一味として存在する。
彼らは、シリア政府軍が反政府側の集落などを攻撃する際、集落の住民を救出する名目でやってきて、化学兵器をばらまき、それを政府軍の仕業だと濡れ衣をかけつつ、化学兵器の被害にあった住民たちを救出する動画を撮って世界にネット配信し、アサド政権は化学兵器を使う極悪だと喧伝していた。
アサドの政府軍は化学兵器を全く使っていないのに、白ヘルメットの自作自演が世界的に軽信され、OPCWはシリア政府軍が化学兵器を使ったと結論づけた。
(シリア政府は内戦で化学兵器を全く使っていない?)
(露イランのシリア安全地帯策)
白ヘルの要員はISカイダであり、内戦が終息した後、イドリブに住んでいたが、ウクライナ当局がイドリブに来てから、白ヘルはウクライナで自作自演の化学兵器攻撃をやってロシア軍のせいにする演出を手掛けるようになっている。
これも、シリア内戦とウクライナ戦争の連携だ。
(White Helmets are back! RT investigates what jihadi-linked Oscar winners are up to)
エルドアンは9月12日、ウクライナ政府が後援するキエフの会合でビデオ演説し、ロシアはクリミアをウクライナに返すべきだとぶち上げた。
エルドアンがこの主張をするのは初めてでないが、彼はふだん親ロシアで、ロシアが今年の議長をつとめるBRICSに加盟申請しており、10月下旬にロシアのカザンで開かれるBRICSサミットに出席する予定だ。
親露なエルドアンが急に反露・親ウクライナなことを言い出す背景には、ウクライナ(と背後の米国)がイドリブに資金を注入し、ウクライナ戦争の一部としてシリア内戦の再燃に加担してくれていることがありそうだ。
(Turkey's Erdogan Demands Russia Must Return Crimea To Ukraine)
(Turkiye’s BRICS bid: Strategic shift or diplomatic leverage?)
ウクライナと戦っているロシアは、このような展開に激怒しないのか。
ロシア政府は、この展開を把握しており、怒っているものの、事実上黙認している。
ウクライナ戦争が永続するほど、世界は非米側が結束して繁栄し、ロシアは強く豊かになり、米欧は自滅して覇権喪失する。
だから、プーチンはウクライナ戦争の永続をこっそり望んでいる。
ウクライナは徴兵対象の成人男子が払底し、兵力不足で負けそうだ。
だからゼレンスキーは和平交渉を希求していた。
イドリブのISカイダが傭兵として参戦してくれれば、兵力不足が緩和され、戦争が続く。
ロシアの国益になるので黙認している。
(ウクライナ戦争の永続)
8月6日からウクライナ軍がロシア側のクルスクに侵攻して占領している。
2か月経っても、露軍は、自分たちよりはるかに弱いウクライナ軍を追い出さない。
少しでも占領されている限り、ロシアは和平交渉を拒絶できる。
ゼレンスキーは最近、スイスでの和平会議の再開をあきらめた。
セルビアの親露なブチッチ大統領は、ウクライナ戦争が停戦後に朝鮮半島型の恒久対立になるのでないかと言っている。
トランプが当選したら、ウクライナ戦争を朝鮮型にするために停戦を仲裁するわけだ。
(Serbian President suggests war in Ukraine will end according to Korean scenario)
(Ukraine no longer anticipating peace summit to be held in November)
シリア内戦とウクライナ戦争がつながることにより、この2つの戦争は、
米国・イスラエル・トルコ・ISカイダの枢軸と、
ロシア・イラン・アサド政権・ヒズボラの連合との
戦争になっている。
だが、イスラエルとトルコは、ロシアと親しい。
イスラエルやトルコは、ロシアがウクライナ戦争の永続を望んでいることを知った上で、シリア内戦とウクライナ戦争をつなげている感じだ。
イランとトルコも親しい。
経済協力を強めている。
(シリアをロシアに任せる米国)
ロシアは2015年以来、アサド政権を守るためにシリア内戦に空軍力で参戦し、10年近く苦心して成功している。
そんなロシアが、アサド政権の転覆につながるシリア内戦の再燃を容認するのか。
これからの多極型世界の雄である中国は了承するのか。
ISカイダは米傀儡として発祥しているが、シリアの政権をとったらイスラエルを敵視しないのか。
イスラエルにとって、過激妄想のISカイダより、現実的なアサドの方がましなはず。
アサドは、ゴラン高原を返してもらえばイスラエル敵視をやめる。
ゴラン高原を占領するイスラエルは、入植地をほとんど作っておらず、いずれシリアに返還することを想定している。
それらを考えると、トルコ傘下のISカイダは大して強くならず、シリアは内戦に戻らない感じもする。