安倍晋三元首相暗殺事件が釜の蓋を開ける結果となった
http://suinikki.blog.jp/archives/86587050.html
2022年9月27日の安倍元晋三元首相の国葬については反対論が国民の多数を占めている。
私は正直に言って、国葬が決定された直後、「世論調査を刷れば国民の半分くらいは賛成ということになるんだろう」と考えていた。
安倍晋三元首相は選挙に強く6回の国政選挙で勝利を収めていたのだから、国民の半分くらいは国葬に賛成するだろうと思っていた。
しかし、私の考えは間違っていた。
国民の過半数が安倍元首相の国葬に反対という世論調査の結果が多く出た。
安倍元首相の人気や人々からの支持はそれほど高くなかったということになる。
そして、安倍元首相率いる自民党が選挙で勝ち続けたのは選挙制度のおかげも大きいということが私の中で明らかになった。
私は国葬という話が出てきた時から反対だ。
国葬を行うための根拠となる法律はない。
国家が行う行事はすべからく税金の支出が伴う。
税金の使われ方を行政府が勝手に決めるというのは危険な暴走行為である。
更に言えば、国家の行う全てにおいて重要なのは手続きだ。
そこに毛ほどの瑕疵があれば、その行事や行為には正当性はない。
今回の国葬に関しては、手続き面で多くの瑕疵がある以上、国葬に正当性はなく、それを強行することは、日本という国家の正統性もなくなるという重大な暴走ということになる。
だから、私は国葬に反対だ。
そして、安倍元首相暗殺事件によって日本政界と統一教会の深い関係が白日の下に晒された。
安倍晋三元首相やその周辺の「保守」と呼ばれる政治家たちは、韓国や中国に対する嫌悪感を煽る、ナショナリスティックな言動を繰り返してきた。
しかし、安倍元首相は韓国を拠点とし、「日本は韓国に奉仕する存在」と主張してきた統一教会と深い関係を築いていた。
この矛盾に戸惑う人が多い。
「反共」という補助線を引けばある程度理解できる。
文鮮明は「反共」を旗印にして、アメリカの共和党や世界各地の独裁者たちと深い関係を築いてきた。
冷戦下、反共産主義であれば、「自由と人権の総本家」を自称するアメリカも独裁国家を支援してきた。
文鮮明は膨大な資金(日本の信者や弱っている人々から搾り取った)を使ってそうした人々に取り入ってきた。
日本の窓口が岸信介から発する自民党清和会であり、笹川良一であった。
文鮮明が築いた反共ネットワークは、独裁国家や独裁者たちをつなぐネットワークであり、岸信介や安倍晋三はそのラインに連なる。
更に言えば、こうした反共ネットワークの基底にあるのはアメリカのCIAだった。
CIAの謀略や世界各国の指導者たちをエージェントにしていった様子は『CIA秘録』(ティム・ワイナー著)に詳しい。
岸信介は戦前には満州国建国から国家総動員計画を作り上げ、戦後はアメリカのエージェント、具体的にはCIAのエージェントとなった。
日本を「反共の防波堤(bulwark against Communism)」とすることに成功した。
「反共」の旗印さえ掲げれば、後は何でも良かった。
岸信介の権力志向と戦前回帰志向も日米安保条約改定までは利用価値があり不問に付された。
岸の日米安保改定については評価する主張もあるが、現在の「対米従属」を固定化する枠組みを強化したという点では、「反米で独立志向の立派な岸信介」という評価は過大評価だと私は考える。
今回の安倍晋三元首相の暗殺と国葬は日本の戦後政治が抱えてきた負の部分を一部ではあるが国民に示すことになった。
日本政治の汚れた部分を急に全部きれいにすることはできないし、そもそも政治に汚い部分が存在するのは当然のことだ。
しかし、あまりにも汚れ過ぎている場合にはその掃除が必要だ。
自民党内部の良識ある人々も含めて国民的な動きとして掃除を行うことが重要だ。
(貼り付けはじめ)
安倍晋三元首相の殺傷事件をきっかけにして統一教会について詳細に調べられる
(Shinzo Abe’s Killing Puts Unification Church Under Microscope)
-日本の与党と韓国の統一教会との関係が国民の怒りを買っている。
ウィリアム・スポサト筆 2022年8月29日 『フォーリン・ポリシー』誌
https://foreignpolicy.com/2022/08/29/shinzo-abe-killing-unification-church-japan/
東京発。
安倍晋三元首相が暗殺された事件をきっかにして、予想もしなかった公の場での議論が起きている。
当初は悲しみの声が覆っていたが、犯人が人々に注目させたかった問題について、政府に対する人々の怒りに変化している。
合法的であれ何であれ日本では銃を入手することはほぼ不可能なので、先月起きた安倍元首相襲撃は、粗末な手製の武器で行われたが、いくつかの計画変更により首相が標的になった。
犯人の長期的な目標は、統一教会の宗教指導者を狙うことだったようだ。
統一教会(Unification Church)は、韓国を拠点とする宗教団体で、信者に対する強引な資金集め(heavy-handed fundraising among members)や集団結婚式(mass wedding ceremonies)で知られ、論争の的になっている。
統一教会の最高指導者の代わりに安倍元首相を攻撃しようと決めたのは、安倍元首相が世界平和統一家庭連合(Family Federation for World Peace and Unification)として知られる統一教会とつながりがあると考えたからである。
安倍元首相暗殺で逮捕された41歳の元自衛隊員の男性、山上徹也容疑者は、1984年に父親が亡くなった後、母親が統一教会に入り、家族が経済的に破綻したことに怒りを持っていたと捜査当局に供述している。
家族の1人によると、母親は長年にわたって合計70万ドル以上の献金をしていたという。
1954年にカリスマ性のある文鮮明によって設立されたこの教会は、高圧的な資金調達の手法に詐欺の疑いがあるとして、日本の警察と何度も揉めている。
日本人の会員数の推定は調査によって大きく異なるが、日本の信者は主要な収入源であると考えられている。
世界的には200万人から300万人の信者がいると言われている。
山上は当初、教団の再興指導者、特に2012年に文鮮明が亡くなった際に教団を引き継いだ文鮮明の未亡人、韓鶴子(Hak Ja Han、ハンハクジャ)を標的にしようと考えていたという。
しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で韓鶴子は予定していた日本への渡航をキャンセルし、更に山上は韓国への渡航が不可能になった。
2021年の同時期、ある教団大会で安倍元首相が行った賛辞のビデオを見て予定を切り替えたという。
安倍の祖父で戦後の首相だった岸信介の1950年代までさかのぼる、教会と日本の与党・自民党の関係も山上は知っていたのだろう。
政治に精通した文鮮明は、その厳格な反共主義的見解において、日米の保守派と共通の基盤を見出した。
統一教会は常に論争にさらされ、カルトと揶揄されたが、それでも文鮮明は世界の有力者たちと親しくなり、彼らはしばしばその好意に応えた。
また、ウォーターゲート事件で苦境に立たされたニクソン大統領を支援したことで、ニクソン大統領から感謝されたこともある。
文鮮明は、1990年にはソヴィエト連邦を訪問し、ミハイル・ゴルバチョフ大統領と会談し、政治・経済改革への支持を表明した。
1995年、ジョージ・H・W・ブッシュ(父)元米大統領とバーバラ・ブッシュ夫人は、文鮮明の妻が運営する教会系の団体である世界平和女性連合(Women’s Federation for World Peace)の大規模な会合で演説を行った。
安倍元首相が登場した2021年のネットイベントには、ドナルド・トランプ前米大統領も登場し、文氏が1982年に設立した、共和党支持の『ワシントン・タイムズ』紙を絶賛した。
文鮮明にとって、日本は勧誘と資金調達のための肥沃な土地だった。
宗教が人生において非常に重要であると答えた日本人はわずか10%であり(多くの人は神道の結婚式と仏教の葬儀を抵抗感なく行き来する)、統一教会を含む多くのニューエイジ宗教に引き寄せられる人々もいる。
外部の人間から見れば、こうした宗教は世間知らずの人々からお金を搾取する洗脳カルトだが、人気が衰えないのは、何らかのニーズを満たしていることを示唆している。
自民党にとって統一教会は、熱心でよく組織された支持者集団であり、信者の票集めという選挙戦の最前線での仕事を引き受けてくれた。
こうした政党と宗教のつながりは異常なことではなく、必ずしも裏があるわけでもない。
アメリカの福音派(U.S. evangelicals)と共和党の密接な関係は周知の通りである。
同時に、アメリア南部の黒人教会は、会員の投票率を上げるのに十分な効果があることが証明されており、ジョージア州とテキサス州の共和党は日曜日の投票を禁止しようとしたが、これは悪い方向に作用した。
日本では、過去10年間連立政権の一翼を担ってきた公明党は、1930年に設立され、過去には政府からしばしば疑いの目で見られてきた仏教運動である創価学会という宗教団体に支えられている。
公明党の山口那津男代表は、宗教と政治が結びついている問題について、8月初旬の記者会見で、統一教会は別問題であると示唆し、慎重な姿勢を示している。
山口代表は「社会的な問題を抱えたり、大きな迷惑をかけたりする団体については、政治家は選挙で支援を求めたり、国民を誤解させるような行動を慎むべきだ」と述べた。
安倍元首相暗殺がなければ、今さらスキャンダルに爆発することもなかっただろう。
統一教会の資金調達方法は、何年も前から批判されてきた。
2009年には訴訟を受けて、資金調達方法を改め、信者が返還を要求したお金を返すと約束したが、最近になって、少なくともいくつかの問題が続いていることを認めている。
統一教会関係者は、元信者からの苦情を聞く仕組みがあることを指摘し、該当件数は着実に減少していると主張している。
しかし、7月8日に安倍首相が殺害されてからの数週間で、国民は統一教会の政治的なつながりに目覚め、どんなに無害に見えても心配だと感じるようになったようである。
違法なものは見つかっていないが、着実な報道は、この国の最も確立された政党と、倫理的に問題があり、弱い立場の日本人を食い物にしているように見える韓国の宗教団体とのつながりに焦点をあてている。
その中でも、萩生田光一元経済産業大臣は、ブッシュ元大統領が演説したのと同じ教会関連の女性団体の会合に出席し、数年にわたり毎年650ドル程度の寄付をしていたことが判明した。
萩生田は、この会のメンバーは一般の有権者であり、自分はこの会の慈善活動を支援していると説明した。
このような報道の中で、共同通信社は日本の国会議員712人全員を対象に、教会との関係を問うアンケートを実施した。
その結果、100人が「何らかのつながりがある」と答えた。
そのほとんどは、イヴェントに参加したり、募金活動のチケットを教会員に売ったりすることであった。
また、30人の議員は、教会の会員が票集めを手伝ってくれたと言っている。
国民の反応は強く、多くの政治家たちがその関係を否定したり、ごまかしたりしたが、新たな報道で事実が発覚し、不信感が募った。
また、出席した会合や寄付が統一教会と関係しているとは知らなかったと説得力のない主張をする政治家もいた。
自民党と統一教会とのつながりが次々と明らかになるにつれ、岸田文雄首相はますます圧力を受けるようになった。
岸田首相は、政権に新しい活力を注入するために、日本ではおなじみの内閣改造にいち早く踏み切った。
首相はまた、閣僚や高官は教会との関係を絶つべきだと述べたが、その作業は個々の議員に任されているようだった。
岸田は最近の記者会見で、「統一教会をめぐって国民から様々な意見が寄せられている。政治の信頼を確保するために、政治家はどう行動すべきかを考えるべきだ」と述べた。
しかし、性急な措置も功を奏さず、統一教会とつながりのある議員3人がまだ閣内に残っているとの報道がなされた。
このため、7月上旬の参議院議員選挙で好成績を収め、わずか1カ月前に勢いに乗っていた政権が危うくなっている。
7月中旬には63%あった支持率は、毎日新聞の最新の調査では36%にとどまっている。
岸田の任期が危ういと言うのは早計だが、これほどの急落があれば、普通なら不運な指導者は退陣に追い込まれる。
【(青木率・青木の法則)内閣支持率(%)と与党第一党の政党支持率(%)の和が50ポイントを下回ると、政権が倒れる、または政権運営が厳しくなるという経験則である】
このように国家指導者が損切りをする傾向があるため、安倍首相を除いて、日本は過去16年間、回転ドア首相が続出している。
9月下旬に予定されている安倍首相の国葬(state funeral)は、戦後日本の政治家の国葬としては、第二次世界大戦を終結させたサンフランシスコ条約の交渉にあたった吉田茂に次いで2例目であることも、こうした事態が暗礁に乗り上げた一因となっている。
今回の国葬は、日本を再び世界に知らしめた安倍首相の幅広い影響力を示す、有力者の集まりとなることが約束されている。
出席予定者は、バラク・オバマ前米国大統領、カマラ・ハリス米副大統領、ナレンドラ・モディ・インド首相などだ。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領やドイツのアンゲラ・メルケル元首相も出席する可能性があると報じられている。
このように世界的な支持を得ているにもかかわらず、毎日新聞の世論調査では53%の人が国葬に反対していると答えている。
岸田内閣に向けられた国民の怒りは、統一教会と自民党のつながりと偽善に対する一般的な不安以上に、明確な焦点がないように思われる。
安倍元首相は韓国との関係で強硬な姿勢を示したが、これは日本の多くの地域に長年存在する反韓感情の底流を反映したものだ。
しかし、安倍元首相が殺害された後に明らかになったことは、親日的なナショナリストの感情と、弱者から金を引き出すことに熱心な韓国の宗教団体を結びつけた、皮肉な関係を指摘するものだった。
多くの世界的人物がそうであるように、安倍首相も常に国際的な議論より国内での議論の方が多かった。
死後もそうである。
※ウィリアム・スポサト:東京を拠点とするジャーナリスト。2015年から『フォーリン・ポリシー』誌に寄稿している。20年以上にわたり、日本の政治と経済を取材しており、ロイター通信とウォールストリート・ジャーナル紙で勤務していた。2021年にはカルロス・ゴーン事件と日本への影響について共著を出版した。
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