イランの失敗
https://tanakanews.com/241004israel.htm
一昨日の記事で、イランはイスラエルと本格戦争する気がないので、中東の戦争は拡大していかないという趣旨を書いたが、私はその後、見方を変えている。
イランの姿勢についての自分の分析は間違っていないと思う。
4月にイランとイスラエルが報復攻撃を繰り返した際も、双方が敵対を縮小していき大戦争にならなかったので、その演技が今回も繰り返されるなら大戦争にならない。
だが今回、イスラエルはおそらく4月の演技を繰り返さない。
イランは本格戦争する気がないが、イスラエルその気がある。
イランが軟化するほど、イスラエルは硬化する。
だから、中東の戦争は拡大していく可能性がある。
(Biden Is Pushing Israel Towards Larger War)
イスラエルは多分、今後数日間に、10月1日のイランからイスラエルへの攻撃よりも大きな攻撃を、イランに対して行う。
イランは、4月と同じ縮小していく演技が繰り返されるものだと思ってイスラエルを攻撃したが、イスラエルは逆に、事態を本格的な大戦争に近づけるような攻撃の激化をする。
その後の問題は、戦争を拡大しようと攻撃を強めてくるイスラエルに対し、イランがどう反応するか、という話になっていく。
そもそも4月の縮小演技は、今回拡大演技に転換豹変してイランを追い詰めるための引っ掛け的なイスラエルの計略だったとか。
イスラエルがやりそうな策略だ。
(Rabobank: Iran Just Made A Huge Strategic Error)
米バイデン政権はイスラエルに対し、イランを報復攻撃しても良いが、イランが攻撃してきたのと同じぐらいの激しさで報復せよと言って、比例的攻撃を要請した。
4月のように、相互に攻撃を縮小していく演技を今回もしてくれ、それなら大戦争にならない、ということだ。
(Biden says Israel has a 'right to respond' to Iran, but 'in proportion')
イラエルは表向き比例的攻撃を了承した。
そして、イランがアシュケロンにあるイスラエルの海底ガス田の産出設備を10月1日の空爆対象にしていたことなどを受けて、比例的な報復としてイランの石油産出設備をイスラエルが攻撃するかもしれないとメディアに漏らした。
(Israel Planning Major Attack on Iran)
(Israel plans massive Iran payback with Middle East on edge)
イランは、報復の連鎖を縮小していく比例攻撃の演技に乗っていて、ガス産出施設(やイスラエル軍基地やモサド本部など)を標的にしつつも、わざと少しずらし、最重要な標的に命中しないようにしたふしがある。
アシュケロンのガス施設は攻撃されたがほとんど無傷で、翌日にはガス生産を再開した。
(Chevron Restarts Gas Production in Israel After Brief Halt During Iran’s Attack)
命中しなくても、イランがイスラエルのエネルギー産出施設を攻撃したのは確かだ。
イスラエルは比例的に、イランの石油施設を攻撃できる。
イスラエルは標的を外さず、イランの石油産出と輸出を止めて、世界の原油相場を高騰させることができる。
イスラエルは「そういう風にもできますけど、米欧の指導者さんたちはどうされますかね。もっと媚を売ってくれますかぁ」と脅すために、石油施設に反撃する、とリークした。
(Iran's High-Value Oil Assets In IDF Crosshairs As Israel Vows "Painful" Response)
米国は大統領選1か月前で、石油が高騰してインフレが悪化したら、バイデンとハリスの民主党に不利になる。
すでに今週から米東海岸で広範な港湾労働者のストライキが始まり、ストは延々と続きそうだからインフレ激化が必至だ。
そこに加えて中東大戦争で石油が高騰するのを民主党は避けたい。
米政府はG7を集めてイラン制裁の強化を決めた。
全くイスラエルの言いなりだ。
バイデンは記者会見で、イスラエルの攻撃(ストライク)について尋ねられたのに、港湾のストライキについて聞かれたと勘違いして答えてしまった。
ボケ。
どちらも米政府が止められない点で同じだけどね。
(‘Cooked’ Biden Confuses Israeli Air Strikes w/ Looming Labor Union Strike)
共和党の非トランプ・エスタブ系の有力者リンゼー・グラム上院議員などは馬鹿丸出しで「イスラエルに任せてないで、米軍もイランの石油施設を空爆して大破壊する軍事制裁をやるべきだ」と表明している。
グラムは以前から猛烈なイスラエル傀儡で、この傀儡性が彼の高位を支えてきた。
(Sen. Graham Calls for US To Strike Iranian Oil Sites in Response to Attack on Israel)
イスラエルは、10月1日にイランから攻撃されてどのくらいの被害が各地に出たのか、着弾現場の取材をメディアにほとんど許しておらず、被害を隠す戦略をとっている。
イスラエルがどのくらい破壊されたかわからないので、イスラエルからイランへの反撃がどこまでなら比例攻撃の範囲内なのか、
世界は知ることができない。
イスラエルはやり放題になっている。
中東大戦争を防ぎたい米政府は、ますますイスラエルに媚びを売り、言いなりで兵器や資金や情報を提供する。
(Israel Censors Reporting On Military Sites Hit By Iran, Obscuring Extent Of Damage)
グテレス国連事務総長は10月2日、イスラエルとイラン、ヒズボラに対して停戦を呼びかけた。
その際、イランを批判しなかったとして、イスラエルがグテレスを非難し、イスラエル入国禁止の制裁を科した。
グテレスは停戦提案で、イスラエルだけを批判したのでなく、誰も批判しなかった。
それでもイスラエルはグテレスをボロクソに非難して制裁した。
(Israel declares UN chief ‘persona non grata’)
グテレスは翌日、釈明する感じでイランの対イスラエル攻撃を非難するコメントを発表した。
国連加盟国の多くがイスラエルを非難しているが、事務総長はイスラエル傀儡な米欧に引っ張られ、イスラエルの言いなりにならざるを得ない。
イスラエルは国連や国際世論が大嫌いで馬鹿にしている。
国連の仲裁など受ける気もない。
だからグテレスを「懲罰」できる。
イスラエルは、米欧覇権が続く限り、米欧を傀儡化しつづける。
世界が多極型に転換したら中露を振り回して生きていく。
(UN chief condemns Iran after Israeli outrage)
(France’s Policy ‘Completely Aligned With the US’)
米欧はイスラエルの傀儡から離脱できない。
それなのにイランは、米欧に対して歩み寄って関係改善すれば、米欧からイスラエルに和平を加圧してもらい、イスラエルがおとなしくなると勘違いした。
7月末にイランの大統領になったペゼシュキアンは、リベラルっぽい姿勢をとって米欧と和解し、イスラエルが好戦策をとらぬよう米欧から圧力をかけてもらい、パレスチナやレバノンなどで停戦を実現してイスラエルとの対立を緩和していこうとした。
(US ‘helpless’ as Middle East burns - Moscow)
この和解策に対し、軍部である革命防衛隊は、米欧イスラエルに期待すべきでないと反対したが、最高指導者のハメネイが(覇権衰退している米欧が乗ってくるかもしれないので)やってみようと言って和解策に賛成した。
その直後、大統領就任式に出席するためテヘランに滞在していたハマスのハニヤがイスラエルに爆殺されたが、イランはイスラエルへの報復を自重して延期した。
(Iran Attacked Israel Only After U.S. Rejected Its Moderate Stance)
ペゼシキアンは、米欧との関係を改善していこうとしたが、米欧は全く乗ってこなかった。
米国では民主党もトランプも、選挙に勝ちたいので今年は特にゴリゴリのイスラエル傀儡だ。
マクロンら欧州は、ウクライナ戦争で米傀儡をやってひどい目にあっているのに全く方向転換できず米傀儡継続で、イランの提案は無視された。
8月以降、イスラエルがレバノンに侵攻してヒズボラを攻撃する傾向が強まったが、イランは穏健策をとっていたのでヒズボラへの追加支援に消極的な部分があった。
ヒズボラのナスララはイランに誘導され、米仏に対し、イスラエルと停戦したいと提案した。
イスラエル傀儡の米仏は、ナスララの停戦案を拒否した。
(Hezbollah leader agreed to ceasefire before being killed, Lebanon’s foreign minister says)
イスラエルはイランの消極姿勢につけ込み、ポケベル一斉爆破を挙行してレバノンへの諜報の入り込みを見せつけた後、ナスララやその他の幹部群や兵器庫をピンポイント攻撃して殺し、ヒズボラの戦闘能力を大幅に低下させた。
この戦争は、イランが引っ込んだ分、イスラエルが拡大している。
イランが米欧に期待して譲歩したのは、間抜けな行為だった。
世界戦略とくに中東戦略について、米国に合理性を求めるのは間違っている。
(Fyodor Lukyanov: The Middle East is on the brink of a full-scale war)
隠れ多極主義が強い米国は、イランや露中を敵視し続けて結束させてきた。
イスラエルは、米国のイラン敵視に便乗して過激な戦争を展開して敵をへこましている。
それは今後もずっと続き、米国の覇権を自滅させる。
イランは米欧を無視して中露とつきあっていけば良かったのに、いまだに米欧リベラルへの幻想があり、愚策をとってしまった。
それらの流れは、ちんけな市井の私にさえ見える。
だが、ペゼシキアンの和平案に乗ってしまったハメネイには見えていなかった。
これは外交素人のペゼシキアンでなく、ずっと最高指導者をやってきたハメネイの失策だ。
自業自得。
「イランの馬鹿」。
(After Iran’s missile salvo, will Israel bite or fold?)
イランは失策によって敗北している。
ヒズボラという、レバノンでのイランの大事な安保資産が消されつつある。
イランが負けているのに、イスラエルが負けているという妄想記事がオルトメディアに出回っているので驚く。
(‘New Day’ for World as Myth of Israeli Invincibility Shattered - Analyst)
イスラエルは間もなくイランの石油施設を空爆するのか??。
たぶん今回はしない。
イランがどんな再反撃をしてくるか。
それによって、イスラエルの再々反撃の対象に石油施設が入りうる。
イスラエルがイランの石油施設を攻撃したら、イランは報復として、イスラエルのミサイルが自国の上空を通過するのを黙認した諸国(サウジアラビアやUAEなど)の石油施設も攻撃すると言い出している。
(Iran Will Consider Any State Providing Airspace to Israel As Enemy)
サウジなどが、米国を通じてイスラエルに圧力をかけてくれることを期待しているのか。
無駄だろう。
各地の石油施設が相互に攻撃されて原油相場が急騰するかもしれない。
そこまでの事態にはならないかもしれない。
脅されても、原油相場は大して動いていない。
相場は麻痺しているので、本当に破壊されてから高騰するのだろう。
世界的に、麻痺とか善悪逆転とか歪曲とか超愚策ばかりになっている。