中露と米国の対立を長期化する
https://tanakanews.com/230916order.htm
米国のブリンケン国務長官が4月13日の講演で、世界は米国主導で比較的安定していた「冷戦後の時代」が終わり、米国が中露と対立し続ける時代(対立的な新世界秩序)に入ったと、時代の転換を宣言した。
この宣言は、先日のBRICS拡大など非米側の台頭を受け、米国自身が単独覇権体制の終わりを認めたことを意味する。
同時に、米国が今後かなり長い期間にわたって中露(など非米側)と対立していくという表明でもある。
ブリンケンは、米国が主導していた冷戦後の世界体制が普遍的な価値観(人権、民主)と国際法を尊重する良いものだったと自賛した上で、中露は従来の世界体制を「米国による強圧的な支配だ」と批判つつ破壊し、替わりに中露など全体主義(非米側)諸大国による新たな支配体制を作ろうとしており、米国はNATOや日韓豪との同盟を率いて中露に勝たねばならない、と主張した。
ブリンケンは、国際秩序を壊したロシアを勝たせぬよう、ウクライナを支援してロシアを打ち負かさねばならないとか、中国は経済や軍事外交やハイテクの力を使って国際秩序を作り変えようとしているので長期的に最大の脅威だとも述べた。
ブリンケンは「時代の転換」という長期の話をしており、米国がこれからもずっと中露を敵視し続ける方針を打ち出している。
ウクライナ戦争は、少なくとも今後2-3年は続くとロシアの議員も言っている。
またプーチン大統領は最近のウラジオ演説で「(来年の米大統領選挙で)トランプが返り咲いても、ロシア敵視やウクライナ戦争を終わらせることはない。トランプは対露制裁を続けると言っている」と述べ、米国は次期大統領が誰になろうがロシア敵視をやめないと予測している。
ブリンケンの必勝論と裏腹に、ウクライナの戦場ではロシアの勝利が確定しており、米NATOがいくらウクライナを支援しても挽回できなくなっている。
ウクライナを戦わせる代理戦争でなく、米NATOが直接ロシアと戦争するなら勝てるかもしれないが、それは米露核戦争になって人類を滅ぼし、ブリンケンが描く「米国が中露と対立し続けて勝つ」シナリオにならない。
米政府は今後もロシアとの直接の戦争は考えておらず、代理戦争しかやらないことがうかがえる。
https://www.moonofalabama.org/2023/09/russia-is-winning-in-arms-production.html
米国は従来方式のウクライナ国内での代理戦争で勝てないため、ウクライナが米NATOからもらったミサイルや無人機を散発的にロシア国内の奥深くまで撃ち込み、露軍が迎撃しきれなかった分がロシアの軍民の施設を破壊する新戦法を2-3か月前から採っている。
これまでは、ウクライナが米国の許可無く勝手に米国製兵器を露本土に撃ち込んでいることになっていたが、最近ブリンケンがこの撃ち込みについて、推奨しないが反対せず容認すると述べた。
米国はウクライナに失地回復戦をやらせる代理戦争から、ロシアを戦場にする直接戦争に微妙に近づいている。
露政界では強硬派がプーチン大統領に「これまでのようにウクライナだけを相手にするのでなく、米国も敵とみなす戦争に入るべきだ」とせっついている。
プーチンはまだ動いていない。
のらりくらり。こちらも微妙だ。
この米露双方の微妙な動きは、すでに決着がついているウクライナ戦争を長期化していく。
開戦当初から、プーチンと米政府中枢(ブリンケンやサリバンなど隠れ多極主義者たち)の両方が、超厳しい対露経済制裁によって米国側と非米側に世界経済を分断し、非米側が発展して米国側が自滅する世界体制の長期化・固定化を模索し続けてきた。
今回ブリンケンが発表した中露敵視の米長期戦略は、中露やBRICSなど非米側を結束させ、非米側の発展と米国側の自滅を引き起こす隠れ多極主義の戦略だ。
プーチンは、怒ったふりをして実は大喜びでこの戦略に呼応する。
プーチンは先日のウラジオ演説で「非米側が台頭して世界を席巻したのに、米国側はうっかりそれを無視して自滅している」と述べた。
米国は、2000年以来の中露の結束推進などによる多極化を無視・放置した。
私が見るところ、この無視は「うっかり」でなく昔からの意図的なものだが。
米国は、中枢に巣食った隠れ多極派の意図に沿って自滅している。
今回の、中露を倒そうとする米国の新戦略は自滅を加速する。
米中枢のブリンケンやサリバンら(隠れ多極派)は最近、沿ドニエストル、シリア、アフリカのサヘル、ベネズエラなど、以前からロシアと対立していた地域での露敵視を強化することで、米露対立を世界的な規模で維持する策をとり始めている。
ウクライナの戦闘に決着がつき、米露対立を維持するには領域の拡大が必要だからだ。
しかし、シリアでもサヘルでも、ロシアの優勢と米国側の不利が増すばかりで、米国の挽回はない。
ブリンケンは、今回の方針提起で中国と対立すると言いつつ、台湾に全く言及していない。
米国が台湾独立を正式に支持すると、米中は核戦争を含む本格戦争になりうるし、台湾が戦場になって破滅する。
米国は、そこまでのやる気がなく、米中の経済関係を断絶して米国側の経済を自滅させていくだけの策だ。
ブリンケンは就任直後から、その手の中国敵視を続けてきた。
中国は、米国側と経済を断絶しても、発展が続く非米側で食っていける。
対照的に米国側は、中国や非米側との経済関係を断絶したら衰退するばかりだ。
米側マスコミは中国経済が破綻しつつあると喧伝するが、経済の悪化は中国より米欧の方がひどい。
米欧は実体経済が悪化しているのに金融相場が粉飾によってバブルが維持されており、米国経済は良いという大ウソが喧伝されている。
中国は金融が悪化しても覇権崩壊しないが、米国は金融が悪化すると覇権崩壊する。
https://www.moonofalabama.org/2023/09/kasandras-beware-china-will-not-hit-the-wall.html
米国が金融崩壊して覇権が大幅低下したら、今回ブリンケンが宣言した中露との対立も継続できなくなる。
米国が中露と長期対立するには、米国が金融崩壊・ドル崩壊しないことが必要だ。
米国は今後もインフレが悪化し続けることがほぼ確実だ。
インフレが悪化し続けると米連銀FRBが利上げし、長期金利が上がって金融バブルが崩壊する。
それを引き起こさずバブルを延命させることが必要だ。
インフレがさらに悪化すると、すでに不況になっている米実体経済がもっと悪化するが、米側マスコミは歪曲的な経済報道を続け、金融相場の高値が維持され、人々がそれを軽信する状況が続く。
米政府が、バブル延命策を持たずに中露との長期対立を予定するとは考えにくい。
あと2-3年ぐらいはバブルを延命させてドル崩壊を先延ばしし、中露など非米側との対立を続け、非米側が米国に全く頼らずに世界経済と国際社会(多極型覇権)を運営していけるようにするのでないか。
もしくはその前に、米国が威勢よく中露との対立を煽っているうちに、突然バブル崩壊して覇権が衰退し、非米側が世界を主導する状態へと転換するのか。
米国の中露敵視は、それ自体を見ると不必要で不合理な策だ。
米国側が中露を敵視する必要は全くない。
中国もロシアも、米国側に何の脅威も与えていない。
ウクライナ戦争は、米国がウクライナを傀儡化してロシア系住民を殺させたことが悪の根源であり、ロシアは被害者だ。
中露は、米国側を敵視していない。
米国側が中露を敵視するから、中露は対応を余儀なくされている。米国が中露敵視をやめれば世界は平和になる。
中露が全体主義だと言うなら、バイデン政権の米国の方が全体主義だ。
米民主党は、選挙不正を連発し、多くの愚劣なリベラル策で米国を自滅させている。
独仏はポピュリストを不当に抑圧するエリート独裁だし、日本は官僚独裁体制だ。
中国は1党独裁だが、ロシアは民主主義国だ。
米国の中露敵視は、敵対構造を長期化し、中露が非米諸国を率いて米国抜きの世界体制を作るように仕向け、世界を多極型の覇権構造に転換させるための隠れ多極派の策である。
強くて善良な米国が覇権を持っている限り、中露など全世界が米覇権体制に満足している。
だが、それでは米欧が新興諸国や途上諸国からピンはねして世界経済の成長を抑圧する体制が続いてしまう。
もともとの米国は善良だが、米国の覇権を裏で牛耳っている英国はピンはねで生きており、米国の軍産などを巻き込んで世界を搾取してきた。
この隷属状態を覆すため、米国は911以降、過激で稚拙で理不尽な政権転覆策や中露敵視策を20年以上も続け、中露が米国を無視して新たな多極型の世界を作るように仕向けている。
この偽悪的な米国の隠れ多極主義の戦略があと何年続くと、世界の転換が完了するのか。
あと3-5年ぐらいかとも思うが、「一つの時代」というなら10年ぐらいは続く必要がある。
予測が難しい。