2010年にイラク駐留米陸軍の情報分析官だったチェルシー・マニングが、イラクとアフガニスタンに関する米国防総省の文書、国務省の外交電文など合計75万件もの米政府の機密文書をウィキリークス経由で公開したことが特に有名だ。
米政府は、マニングが国防総省のサーバーに不正に侵入して機密文書をダウンロードしたことにアサンジが関与しているとして、アサンジを起訴することを昨年に正式決定している。
英政府は、米国に頼まれてアサンジを別件(強姦容疑の保釈規定違反)で逮捕しており、身柄を米国に送致すると予測されている。
アサンジの逮捕や米国での起訴は、マニングと結託して米政府の機密文書を公開した事件に関してだが、私の見立てによると、トランプがアサンジを今のタイミングで逮捕して米国に連行して起訴することにした真の理由は、別のところにある。
それは、トランプが当選した米大統領選の選挙戦最中の2016年、何者かが米民主党本部(DNC)のサーバーに不正侵入してヒラリー・クリントン候補やその他の民主党幹部たちが送受信したメールの束を盗み出し、ウィキリークス経由で暴露した事件についての話だ。
この暴露で、クリントン陣営がDNCと謀り、ライバル候補だった左翼のバーニー・サンダースを妨害していた不正などがわかり、問題になった。
その後、このDNCメール漏洩事件は、民主党支持(トランプ敵視)のマスコミや諜報界(軍産)によって
「DNCのサーバーに不正侵入してメールの束を盗み出したのはロシアの諜報機関に違いない。プーチンは、ロシアの味方をしてくれそうなトランプを大統領選で勝たせるために、配下の諜報機関に命じてDNCのサーバーからメールの束を盗み出し、ロシアの味方になってくれるウィキリークスのアサンジにそれを渡して公開させた。DNCメール漏洩事件は、プーチンとトランプとアサンジが結託してクリントンを不利にし、ロシアのスパイであるトランプを勝たせるための謀略だったのだ!!!」
という筋書きへと歪曲された。
この歪曲により、クリントンやDNCがやっていた選挙不正や、トランプでなくクリントンの方が英国(スティール報告書)やロシアと結託してトランプを潰そうとしていたこと(=ロシアゲートの本質)はそっちのけにされてきた。
トランプ当選後、DNCサーバーからメールの束を盗み出したのはロシアでなかった、という説が定着した。
ロシアでなく、DNCの内部者(ネット経由のハッキングでなくUSBメモリによる持ち出し)もしくはロシア人を偽装した米諜報関係者が犯人でないかという説が有力になった。
だが、DNC事件の真犯人を探す話になる前に、軍産がトランプに圧力をかけてFBIのモラー(ミュラー)特別捜査官にロシアゲート(トランプとロシアの関係)を捜査させる話が大騒ぎになり、その状態は、昨秋の中間選挙でトランプが共和党の乗っ取りを完了して政権内に入り込んでいた軍産を一掃していき、今年に入ってトランプ支持のウィリアム・バーを司法長官に据えるまで続いた。
バーが先日、ロシアゲートの捜査を終わらせることを決め、モラーが最終報告書を作り、本件で誰も起訴されない(=トランプはロシアのスパイでなかった)ことが確定した。
トランプの報復作戦の一つの道具がアサンジなのでないかというのが私の読みだ。
アサンジは、誰がDNCのメールの束をウィキリークスに持ち込んできたかを知っている。
持ち込み者を特定できないと情報の真贋を確定できず、ウィキリークスとして自信を持って公開できないからだ。
持ち込み者がロシア当局でないことは、米諜報界も認めている。
ロシアでないなら、残るは米国側しかいない。
義憤に駆られたDNCの内部者(サンダース陣営の者や、殺されたDNC事務局のセス・リッチ=民事裁判では立証できていないと判決されているが)、もしくはトランプを潰したい軍産・諜報界(もしくはトランプ潰しのふりをして最終的に軍産側を自滅させたい軍産内の隠れ多極主義者)とかだ。
いずれにしても、アサンジがDNCメール事件の真相を語ることで、この件でのトランプの無実が確定するとともに、トランプに濡れ衣をかけようとしてきた軍産・民主党側の謀略が露呈していく。
全容の解明はないだろうが、民主党や軍産との交渉でトランプの優勢が強まる。
ロシアゲートの本質など、トランプと軍産の政争における最近のトランプの巻き返しのダイナミズムについては、法輪功系の「エポックタイムス」(大紀元の英語版)が本質を突いた仮説満載の記事を連続して出しており、非常に面白い(とくにBrian Catesが書いたもの)。
法輪功だからといって毛嫌いしてはならない。
統一教会系のワシントンタイムスも面白い。
共和党からリークを受ける反共メディアを馬鹿にするのは間違いだ。
民主党・軍産からのリークを受ける歪曲だらけのリベラルな主流マスコミよりましだ。
権威=糞。
アサンジ逮捕後、一般に「身柄を米国に送致されたら終わりだ」みたいな印象が流布しているが、実のところ、米国に送致され起訴されてもアサンジは重罪に問われない。
無罪で終わる可能性すら意外に高い。
ウィキリークスに持ち込まれた機密情報を公開するだけなら、その情報公開が米政府などにとってどんなに危険なものであろうが、米国で罪に問われることはない。
ウィキリークス(反軍産)と米マスコミ(軍産傀儡)は、リークされてきた機密情報を必要に応じて公開する「ジャーナリスト」として同じ権利を持っている。
だが、アサンジはジャーナリストとみなされるのでスパイ罪を適用されない。
アサンジが受けた容疑は「マニングが国防総省のサーバーに不正侵入することをけしかけ、手伝った」という、サーバーへの不正侵入を罰する法律( Computer Fraud and Abuse Act )に基づくものだ。
この法律だと最長でも5年の禁固刑だ。
米国の検察は、アサンジが匿名のチャットシステム(シスコのジャバー)を通じてマニングとやりとりし、その中で「グァンタナモについての機密情報も送った方が良いか」と尋ねたマニングに対し、アサンジが「好奇心はとどまるところを知らないので、あっても良いかも」という感じの返答をしたのが「マニングに不正侵入をけしかけた」ことの証拠であると主張している。
だがチャットは完全匿名であり、マニングがチャットでやりとりした相手が本当にアサンジだったのかどうか立証されていない。
しかもマニングは、こうしたやりとりの前にウィキリークスに膨大な機密情報を送りつけている。
マニングの「犯行」の大半はアサンジからけしかけられたからでなく、マニング自身が一人で考えてやったことだ。
これらの理由から、アサンジは無罪もしくは微罪で終わる可能性が高い。
米民主党やその系統のリベラルな米マスコミ(NYタイムス、ワシポス、CNNなど主流各社)は、かつてアサンジを支持していた。
だが16年の大統領選でDNCメール事件が起こり、アサンジがDNCとクリントン(=軍産)にとって不名誉なメールの束をウィキリークスで公開した後、民主党とリベラルマスコミはアサンジを敵視し始めた(トランプはウィキリークスを礼賛した)。
これ以来、リベラル系の米マスコミは「アサンジをDNCメール事件で起訴断罪すべきだ」と主張し続けている。
だが実のところ、DNCメール事件は、軍産側が引き起こした内部犯行あるいは自作自演の事件であり、アサンジは合法的な「ジャーナリスト」として機能しただけの第三者だ。
今回のアサンジ起訴からもDNC事件は外されている。
こんな状態の中で、トランプの米政府がアサンジを米国に連行してくる。
すでに書いたようにアサンジの罪状は、微罪もしくは無罪であり、アサンジは濡れ衣を晴らし、犯罪者から英雄に変身していく可能性が高い。
これは、トランプを有利にする。
トランプは、アサンジを自分の政争のエージェントとして使っている。
アサンジ逮捕の直後、トランプは「私はウィキリークスについて知らない。(アサンジ逮捕は)私がやったことでない」と、逮捕から距離を置く発言を放った。
これは、選挙戦時代にトランプがウィキリークスを礼賛していたので、今になって逮捕するとは何事かと政敵やマスコミから非難されるためだ。
加えて、アサンジが無罪や微罪で終わる可能性が高いので、あらかじめ逃げを打っておく意味もある。
実際のところ、アサンジ逮捕はトランプが以前から計画し、今の時期を見計らってやったことだ。
トランプは昨年3月、アサンジに対する起訴状を司法省に作らせている。
ちょうど、DNCのメール漏洩はロシアが犯人でなく内部犯らしいと米諜報界(軍産)が認め始めた時期だ。
トランプはそれ以来、ロシアゲートの濡れ衣が晴れて自分が優勢になるのを待っていた。
アサンジが米国の敵とされたのは、トランプ就任よりはるかに前、マニングが75万件の機密情報を漏洩させた2010年のことだ。
当時のオバマ大統領は「ジャーナリスト」として機能しているアサンジの訴追が困難であると判断し、起訴を見送った。
それから8年も経ってトランプは、オバマが検討したのと同じ罪状でアサンジを起訴することを決め、1年後の今になって逮捕に踏み切った。
トランプは、アサンジが微罪か無罪で終わることを知りながら動いている。
これは司法でなく政治の事件だ。
アサンジが微罪や無罪で終わると、マスコミは「トランプの責任だ」と騒ぐだろうが、この事件でより大きな被害を被るのはマスコミや民主党、軍産・諜報界の側だ。
トランプではない。
それから3年たち、民主党内では左派が台頭し、主流派が退潮している。
党内では、左派と主流派の主導権争いが続いている。
これは、米政界内で軍産の居場所がさらになくなることを意味する。
共和党はすでに「トランプの党」であり、軍産は民主共和の両党から追い出されていく。
AOC(オカシオコルテス下院議員)ら民主党左派は、米国の自滅に拍車をかける「トランプ革命(多極化)の別働隊」である。
ここまで、アサンジが米国に送致され起訴されることを前提に延々と書いてきたが、アサンジは米国に来ない可能性もある。
新たな事態は、まだ始まったばかりだ。
米国からの要請でエクアドルはアッサンジの亡命を取り消し、英国警察が逮捕
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