「証券化」は、うまみのあるビジネスとして広がり、信用バブルは止めどなく膨れ上がっていった。
だがそこには利益相反が存在している。投資銀行、証券会社、各種ファンド、法律事務所、会計監査法人、各付け機関、経営コンサルタントなどが同じ金融界の住人であるということだ。
本来、証券化ビジネスが儲かるかどうかも確立が支配する世界のはずだった。
儲ける側がいれば、損をする側もいる。
それでバランスが取れていき、金融工学の理論上は「誰も市場を出し抜くことはできない」という原則が守られるはずだった。
だが、現実には金融界の住人たちは情報を共有し、狙いを定め、政府を動かし、攻撃を仕掛けていった。
つまり過去も現在も、証券化ビジネスはインサイダー取引を行っているのと変わらない状況にあるのだ。
そういった大きな構造に加え、個々のビジネスマンは自分自身の収入と出世のために、しかも、儲けを出した際には一般のサラリーマンには想像もつかないほどの巨額のボーナスを手にし、損した時はその損失を一般投資家に押し付ける。
その結果、無責任で独善的な判断が横行する。
過度のレバレッジをかけた投資がその最たる例だ。
巨額の不正経理、不正取引が明るみに出て、当時のアメリカ史上最大の160憶ドルもの負債を抱えて破綻したエンロン事件。
監査法人のアーサー・アンダーセンが粉飾決算に加担し、大手金融機関のアナリストがマスコミを通じてエンロン株を推奨。
見せかけの企業価値を裏打ちし、一般投資家に対してまるで金融機関の保障がついているかのような印象を与えた。
言わばゴミの上に城を作り、きれいに飾り、いわくあり気な歴史を後付けし、投資家を集める。
うまく城が転売できれば、ゴミから金が生れ、みんなが儲かる。
転売に失敗しても解体費は一般投資家の損失となり、金融界の仲間たちは無傷で次の案件を探しに行く。
そういった枠組みの中で、証券化における信用の鍵を握る各付け機関もまた、中立な立場であるはずがない。
現在、債権の各付けを行っているのはスタンダード&プアーズ(S&P)やムーディーズという各付け機関。
S&Pの各付けで言えば、最高ランクがAAAとなり、AA、A、BBB、BB、B、CCCと続いていく。
これが債権の信用力の裏付けとなる信用格付けだ。
重要なのはBBBとBBの間の線引きで、BBB以上は投資適格でBB以下はリスクが投資不適格、ないしは投機的な債権と判断される。
つまり、債権の発行体である企業や国、公共団体や金融業者としては、どんなクズ債権でもBBB以上の各付けを所得しないとビジネスが成り立たない。
そこで癒着が生じる。
そもそもビジネスの仕組み自体、各付けをされる側が各付け機関にお金を払うのだから、審査が甘くなるのは当然だ。
仲間から「よろしく頼むよ」と言われ、各付けを行って厳正な評価をしたとして、次のビジネスにつながるだろうか。
債権の発行体となる企業は高い各付けが欲しい。
ならば、審査の甘い各付け機関に近づいていくのが自然な流れだろう。
今回の金融危機の引き金となったアメリカ住宅バブルでは、住宅ローン担保証券などの格付けの判断基準もまた「住宅価格は上がり続ける」という幻想を背景にしていた。
その結果、CDOをはじめ、さまざまな債権が甘い審査による信用格付けのまま世界中に流通している。
アメリカの住宅価格は下落を続け、債権のデフォルトは増加、格付けの信用も揺らぎ、金融機関や投資家は疑心暗鬼に陥っている。
アメリカが作り上げてきた金融システムそのものに対する不信感が世界に広がっている。
信用バブルが弾けた今、今回の危機の根本はそこにある。
なぜなら、金融機関が抱えている不良債権の最終的な損失が確定しない限り、弾け飛んだ信用の収縮は止まらない。