きなこのブログ

大失業時代が到来しています。大失業の恐ろしさを歴史から学ばなければならない。『大失業は戦争への道につながっている』

アメリカの敵と戦わせる「代理戦争」1-3

 

・同調しない新興諸国 新冷戦が生む分断
 

アフガンでの歴史的大敗の後、バイデン政権は窮地に陥る。

 

情けない敗走に加え、米軍のドローン誤爆で無実のアフガン人家族が殺される事件も起きた。

 

窮地のバイデン政権が始めたのが、「どっちの味方か?」Ver.2だ。

 

その標的は中国だ。

QUAD(軍事同盟)やIPEF(経済連携)をつくって中国包囲網を仕掛け、「中国の側につくか、われわれの側に付くのか」と、また世界を分断する。

 

今年2月からは標的にロシアが加わっただけのことだ。

 

アメリカとはこういう国だ。

 

このアメリカによる「悪魔化」に、われわれは容易に翻弄されるのだ。

だが新たな分断は、20年前のようには上手くはいかない。

 

アメリカと欧州の結束は強いが、肝心のASEAN(東南アジア)、そしてインド、パキスタンはお互いに戦争していてもアメリカ側に付かない。

 

アフリカ諸国も、欧米の対ロ経済制裁に参加しない。世界のほとんどの国がアメリカの味方に付いていない。

 

「どっちの味方か?」Ver.2は明らかに失敗しているが、アメリカは諦めずにさらに分断を仕掛ける

地球儀がある人は、北極から見ると世界の見方が少し変わるかもしれない【図参照】。

 

 

見ての通り北極圏沿岸の大部分はロシアが占めている。

 

そして北欧のノルウェースウェーデンフィンランドアイスランド先住民族デンマークから高度な自治を勝ち得たグリーンランドがある。

 

対極にカナダ、アメリカ(アラスカ)。

 

実はアメリカとロシアはベーリング海峡を挟んで4㌔程度しか離れていない。

今この北極圏の氷が溶けている。

 

これまでは夏場は砕氷機を使えば通れても、冬場は完全に閉ざされていたのだが、2030年までに年間を通じて船舶の通過が可能になるといわれている。

 

そうなると原子力潜水艦しか投入できなかった北極圏に他の兵器も投入できる。

 

それだけでなく、永久凍土で発掘できなかった石油を含む地下資源がとくにロシアの沿岸で出てくる。

また、この「北航路」が年間通じて通れるようになれば、中国にとって非常に重要なルートになる。

 

マラッカ海峡~インド洋~スエズ運河を通過する「南航路」を使わず、アメリカの干渉を一切受けないロシア沿岸部を通り、しかも行程を3分の2に短縮させることができる。
 

そのため中国は「一帯一路」構想を始める以前から、ロシアと北欧諸国に対して系統的に大規模な投資をしている。

 

だから中国とロシアの関係はそう簡単には切れない。

 

中国はここまで見越して30年以上前から戦略を立てている。

 

 

北極圏には「北極の国連」といわれる北極評議会がある。

 

北極圏に接するロシア、アメリカ、カナダ、北欧のグリーンランドデンマーク)、アイスランドノルウェースウェーデンフィンランドの8カ国(準加盟国として中国と日本)が参加し、北極圏をめぐる各国の利害を調整する世界で唯一の機関だ。

 

各沿岸国が好き勝手に覇権争いを始めたら地球が破壊されるからだ。

 

それが、ウクライナ戦争が始まってからまったく機能していない。

 

「ロシアとの対話はしない」という理由だが、北極圏の大部分を占めるロシアを排除して北極圏の権益が保てるだろうか? 

 

地球温暖化に対処できるだろうか? 

 

今欧州では、ロシアの専門家や科学者を呼んで会議を開くこともできないほど分断が進んでいる。
 

・新冷戦時代の緩衝国家 北欧諸国の知恵と葛藤
 

ウクライナ戦争は今年2月から突然始まったものではない。

 

その1年前の昨年4月からウクライナとの国境線付近にロシアは軍を集結し始めていた。

 

世界は緊張し、僕も戦争が必ず起きると予測した。

 

そこで昨年12月、NATOの創立メンバーであり、アメリカの最重要同盟国であるノルウェーが会議を招集し、そこに僕も呼ばれた。

 

このときはロシアの専門家も同席した。

 

国境沿いに軍を集結させたロシアがこのまま開戦すればどうなるのかについて予測し、緩衝国家としての対応を探るためだ。

「緩衝国家」とは何か。

 

ロシアに接するノルウェーがそうであり、フィンランドアイスランド、そして日本、韓国も典型的な緩衝国家だ。

 

つまり緩衝国家とは、敵対する大きな国家や軍事同盟の狭間に位置し、武力衝突を防ぐクッションになっている国だ。

 

その敵対するいずれの勢力も、このクッションを失うと自分たちの本土に危険が及ぶと考えるため、軍事侵攻されて実際の被害を被る可能性が、普通の国より格段に高い。

 

もし何か起きた時には、クッションが先にやられるのだ。

そのような国は、国防の観点から、なんとか戦争を回避しなければならないという役割を必然的に担うため、それを国是とするのが普通だ。

 

ノルウェーノーベル平和賞の授与国で知られる平和のメッカであり、パレスチナイスラエルの紛争を終わらせるオスロ合意もここで演出された。

 

それはノルウェーがロシアに接する緩衝国だからだ。

 

ロシアの参加がなければ、そのような世界的な和平合意の交渉はできない。

 

だからアメリカの重要な同盟国であり、人権国家でありながら、ロシアとの衝突を防ぐクッションになる。

 

そのことによって世界平和に貢献する。

 

ノルウェーは、このような平和・人権外交を、国の外交資産としてきた。

そのような立ち位置でうまくやってきたのが、フィンランドノルウェーであり、小国アイスランドだ。

 

くり返すが、彼らはアメリカの最重要同盟国だ。

 

だが国防の観点から、自国が最初の戦場になることを回避する――という極めて簡単な理由でその選択をする。

旧ソ連圏だったバルト3国は独立後、早々とNATO加盟国になる。

 

そして2014年のクリミア併合後は、ここが「トリップワイヤー(仕掛け線)」に変わる。

 

国境沿いにNATO軍を置き、互いにミサイルを向け合い、ことが起きた時にはここで相手の侵攻を遅らせるためのNATOの戦略の一つだ。

 

日本では沖縄を含めて、それ以前からアメリカのトリップワイヤー化されている。

そこで注目に値するのが、NATO創立以来の加盟国であるアイスランドだ。

 

この小さな島国(人口37万人)は、地理的にロシアからアメリカを狙うミサイルが上空を飛ぶため、米軍が最重要基地として常駐し、アメリカの不沈空母といわれてきた。

 

だがリーマン・ショック後の2010年、さまざまな理由を背景にして、この国は米軍駐留を廃止した。

 

米軍は訪問できるが常駐はしない。

そこで、国の防衛をどうするか――若い首相は考えた。

 

NATO加盟国として「自由と民主主義」を信奉するが、別にロシアを刺激しなければ国防は必要ないという結論を出し、国防軍を廃止した。

 

だから警察や海上保安隊はあるが軍はない。

 

米軍と別れを告げるとともに自国軍まで廃止したのだ。

だが2014年のクリミア併合後、これら北欧の国々では、ロシアを脅威と見なす論調が、ロシアを刺激しない限り平和だという世論とぶつかり合い、その力関係が揺れ始めた。

 

そして、ついに2020年5月、北極海に面したノルウェー北部のトロムソに、攻撃型の米原子力潜水艦が戦後初めて寄港した。

 

これには地元住民が大反対した。
 

またNATO道盟国でありながら、2014年までは米軍の常駐を絶対に許さなかったノルウェーで、部分的にではあるが、海兵隊が国境から離れた場所への常駐を始めた。

 

ロシアのクリミア併合は、北欧諸国にもそれくらいの大きな影響を与えた。

民主主義国家である以上、いろんな事態が起きるたびに国論が揺れ、政治的選択が揺れ動くことは当然のことだ。

 

だが、それまで「自由と民主主義」の陣営にいながら、ロシアを軍事的に刺激しないことを国是にしていたのがこれらの国々だ。

プーチンの戦争目的 ウクライナ内陸国
 

今年の2月24日、ロシアの軍事侵攻が始まる。

 

その3カ月前の昨年12月、ノルウェーに集った僕たち研究者は、この事態を明確に予測した。

 

一致した見解は、プーチンなら絶対にやる。なぜならNATOアメリカはアフガンで敗走したばかり。絶対に新たな進軍も駐留もしない。最大限やっても武器の供与までだ。あの男はこの好機を逃さない」というものだ。

事態は予測通りになっている。

 

そこで僕たちは、ロシアには果たしてウクライナを侵略して平定する能力があるのかまで分析した。

 

国を支配するためには軍事占領するだけでなく、平定して治めなければならない。

 

そのためにどれだけの軍力が必要かを試算したが、ロシアの正規軍は30万人程度だが、人口4000万人のウクライナを平定するには、少なくとも90万人の兵力がいる。

 

どう考えても不可能だ。

 

赤軍に200万人動員できた第二次世界大戦の時代とは違う。

ロシアも民主主義国家であり、国民がそれを許さない。

 

プーチンが一番恐れているのは自国の国民だ。

 

もし大規模な動員をかけたら国民が黙っていないことをわかっている。

 

やるとすれば部分的な動員までだ。

 

だから、この国をレジュームチェンジ(政権転覆)させ、全体を支配しようという野望は、ブラフ(こけ脅し)ではいうかもしれないが本意ではない。




では、なにがプーチンにとって現実的な戦争目的かといえば、ウクライナ内陸国化だ。

 

全部は占領せず、一部占領した東部ドンバス、クリミア、黒海沿岸の占領地をつないで回廊を作る。

 

そうすればウクライナ内陸国化し、黒海沿岸の資源、権益はすべてロシアのものにできる。

 

これが上位目的だ。

 

今それさえ無理になっているが、2014年当時の占領地に比べると回廊の幅は厚くなっている。
 

そのどこで停戦に持ち込めるのかを、私たちのグループは探っている。

 

たった1㍍、2㍍の「勝った」「負けた」のために何万人も死ぬわけだ。

 

停戦が1日でも早ければ何千人もの命が救える。

 

こんなちっぽけな領土争いのために、なぜ一般市民が死ななければならないのか。

 

日本の護憲派にこそ、そういう考えをもってもらいたい。