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アーミテージ・ナイ・リポートに忠実に従う 2ー1 ~日本の防衛・外交政策の青写真~

 

第4次アーミテージ・ナイ報告分析 さらなる日米一体化への要求(猿田佐世)

2019/05/14
https://www.nd-initiative.org/research/6411/

 


1 第四次「アーミテージ・ナイ」報告書
 

2018年10月3日、第4次となるアーミテージ・ナイ報告書」が発表された。

「細かい要求が多い」

 

これが最初の印象であった。

 

第三次報告書までは、集団的自衛権の行使武器輸出三原則の撤廃など、国家の大方針にかかわる政策変更を求めていたが、それらは安倍政権下でほぼ全て遂行されている。

 

その「整った」制度下で、本報告書は、米国の「知日派」(対日政策担当者やそこに影響をもつ研究者を本稿では「知日派」と呼ぶ)が、米国の安保戦略において実際に日本をどう動かしたいかとの点に主眼をおいた報告書であると言えよう。



アーミテージ・ナイ報告書とは
 

日本の防衛・外交政策の青写真ともいわれるこのアーミテージ・ナイ報告書」は、日本政府をはじめ安保・外交関係者の間で強い影響力をもっている。

 

2000年を皮切りに、07年、12年と出されてきたこの報告書は、日本への勧告を数多く含み、第一次報告から集団的自衛権行使の禁止は日米同盟の制約と指摘し、東日本大震災後の2012年8月に公表された第三次報告では、原発再稼働、秘密保護法の制定、武器輸出三原則の撤廃なども勧告している。

 

 

この第3次報告では、冒頭で、「日本は一等国に留まりたいか。二等国でよいならこの報告書は必要はない」と記載された。

同年12月の衆院選政権交代を実現し首相に帰り咲いた安倍晋三氏は、その2カ月後の2013年2月、ワシントンを訪問し、この報告書の作成元であるシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)で講演し、会場に参加したリチャード・アーミテージ氏、マイケル・グリーン氏といった同報告書の執筆陣に「リッチ」「マイク」(両氏の愛称)と呼びかけながら、「日本は二等国にはなりません!」と応えている。

安倍政権は、その後、2013年12月に秘密保護法を成立させ、2014年4月には武器輸出三原則を防衛装備移転三原則に変え、同年7月、集団的自衛権の行使を閣議決定で容認、2015年9月には安保法制を成立させた。

 

 

その全てがアーミテージ・ナイ報告書に勧告された内容であった。


 

◆第四弾の特徴


今回の第四次報告書の特徴を、安全保障の視点から大きく述べれば次の2点であろう。

一つには、「対中国」の色彩を前面に出し、これまでの傾向をさらに後押しして、日米のさらなる一体化、同盟強化を求めるものである。

二つ目は、これまでと異なる外交政策を随所で語り、同盟を軽視するトランプ大統領に向けて、いかに日米同盟が重要であるかを訴えている点である。

◆政権への影響力を失った執筆陣


第四次報告書の執筆陣は、代表執筆者のアーミテージ氏とジョセフ・ナイ氏に加え、マイケル・グリーン氏、シエラ・スミス氏らの計9名である。

 

政府の中から日米外交に関わった経験をもつ者もいるが、現在は全員民間の研究者である。

日米外交は限られた人々に担われており、日本メディアも、一部の専門家の声をアメリカの声」として取り上げてきた。

筆者は、今の外交に自らの声が届いていないと考える人々の声をワシントンに届ける取り組みを続けてきた。

 

原発や安保法制に反対する国会議員、基地建設に反対の沖縄の人々をワシントンに案内し、議会や政府関係者等との面談を行う、そんなことを続けてきたが、面談相手の設定にはいつも苦労する。

 

日本に関心を持つ人々は本当に少ない

 

私の調査では「対日政策に影響力を及ぼす知日派は5~30人ほど」との結果となった。

 

その代表格が、この報告書の執筆陣である。

本報告書は民主・共和両支持者の超党派によるものであるが、2016年の大統領選挙中、共和党系のアーミテージ氏やグリーン氏らは、他の過去の共和党政権の元高官とともに「トランプ氏が共和党候補に選ばれても自分は支持しない」という書簡に署名をした。

 

そのため、トランプ氏が大統領に当選後、両氏が政府高官に任命される道は閉ざされた。

昨年10月3日にCSISで開催された報告書発表のシンポジウムで、アーミテージ氏は繰り返し、トランプ政権にいわゆる「アジア専門家」、すなわち「いつもの顔ぶれ」2名しか入っていないことに懸念を表明した。

 

つまるところ、いわゆる「ワシントンの対日政策コミュニティ」の声が十分に米政権に届かなくなっているのが現在の状況なのである。

すなわち、今回の第四次報告書は、そうそうたる米知日派の手によるものであるが、彼らは直接的には現政権に影響力を及ぼせない。

 

そのため、本報告書は日本のみならず、米国のトランプ政権に読ませることも強く意識して書かれている。

昨夏、今回の執筆者の一人に、トランプ政権への向き合い方について聞いたところ、「めちゃくちゃにならないよう、これまで以上に声を上げなくては」との回答であった。

 

その危機感が、今回の第四次報告書には表れている。

◆「かつてなく重要」
 

先述のシンポジウムで、アーミテージ氏は、もう報告書を出すことはないと考えていたが、トランプ政権の保護主義的な方針、そして、基地の前方展開や同盟について疑問を提示するアメリカ第一」の姿勢を目の当たりにし、日米同盟が不明瞭(unclear)になったために出すことにした、と述べた。

また、同シンポにて、ナイ氏も重ねてトランプ氏に懸念を示しながら、在日米軍経費を4分の3負担するような日本を同盟国としてもつことは、アメリカにとって「More Important than Ever(かつてなく重要)」であると述べた。

 

「かつてなく重要」、これは、第4次報告書のタイトルである。


2 報告書には何が書かれているのか


◆2030年までの課題


報告書の目的は、「現在から2030年までの間における、野心的だが達成可能なアジェンダを提示することで、米日同盟を強化するのに役立つこと」と冒頭に示されている。

そして、日米両国が直面する課題として4点を列挙する。

第一に、日米が築いてきた国際秩序が危機に面している。

 

権威主義的資本主義が統治モデルとして広がり、米国のリーダーも同盟や既存の国際秩序の価値に疑問を抱いている。

第二に、トランプ政権が諸同盟国へ商取引的な対応をし、また、他の権威主義的な指導者たちとの関与を持っていることから、人権や民主主義、自由貿易や法の支配といった価値を米国が支えていくという見方を危うくしている。

第三に、中国等の国々が不公正な経済活動を行い、トランプ政権も保護主義を助長している。

第四に、中国等の競争国が、米国及びその同盟国の軍事的優位性を脅かす存在となっている。

そして、これらの難問に抗するための「野心的なアジェンダとして、

「日米の経済的結びつきの強化」

「(日米の)軍事作戦の調整の深化」

「(防衛産業の)共同技術開発の推進」

「地域のパートナーとの協力拡大」

との四つを挙げ、その中で10個の勧告を日米政府に対し(その多くは日本に対し)行っている。

 

以下、それぞれ見ていきたい。