きなこのブログ

大失業時代が到来しています。大失業の恐ろしさを歴史から学ばなければならない。『大失業は戦争への道につながっている』

非米側が主導する多極型世界 3 ~露中「2人ひと組」の外交戦略~

中露が役割分担で中東安定化
https://tanakanews.com/230518mideast.htm

中東の仇敵どうしであるイスラエルとイランとの敵対緩和・冷たい和平関係の構築を、ロシアが仲介している。

 

5月16日、イラン問題などを担当するイスラエル外務省の審議官級の2人(ユーラシア担当のSimona Halperinと、戦略問題担当のJoshua Zarka)がロシアを訪問したと報じられた。

 

その前には、5月10日にイランのアブドラヒアン外相がロシアを訪問している。

 

イラン外相は、ロシアと一緒に、シリアとトルコの和解を仲裁するために訪露したことになっているが、話はそれだけだったのか?。

 

 

昨年のウクライナ開戦以来、米国側の外交官は「敵」であるロシアを訪問しないようにしている。

 

米国側の一員であるイスラエル外交官の訪露は異例だ。

 

ロシアがイランを支援しているのをやめさせるためにイスラエル外交官が訪露したという話になっている。 

 

だが、すでにイランは中露中心の事実上の同盟体である上海機構の正式な加盟国であり、ロシアがイラン支援をやめるはずがない。

 

5月16日には、ロシアの海軍司令官(Nikolai Yevmenov)がイランを訪問し、露イランと中国の3カ国で海軍の協力体制を強化することを決めた。

 

露中イランの結束は強まるばかりだ。

 

 

むしろ、中露主導の多極型覇権体制が中東でも強まり、米国覇権が消失する中で、イスラエルの方がロシアに頼んでイランとの敵対を解きたい。 

 

イスラエルは、米国と組む限りイランを敵視せねばならないが、覇権消失によって米国と組めなくなると、自国の安全保障のためにロシア(露中)と組まねばならなくなる。

 

露中はイランとイスラエルの敵対をやめさせたいので、イスラエルはそれに従ってイランと和解できるし、そうせざるを得ない。 

 

 

イスラエルは、イランと和解する前に、サウジアラビアとの和解を完成させたい。

 

イスラエルとサウジの和解の試みは、トランプ米前大統領が進めたが、達成できず途中で止まっている。 

 

トランプはイスラエルと親しくしていたが、バイデンはイスラエルを敵視する民主党左派に引っ張られている。

 

それでもイスラエルは、米国の中東覇権が消失する前にサウジと和解したいので、バイデン政権を加圧してサウジとの和解を進めさせようとしている。 

 

5月7日には、ジェイク・サリバン安保担当補佐官らバイデンの側近たちがサウジとイスラエルを訪問している。

 

サリバンらは、イスラエルのネタニヤフ首相に命じられてサウジを訪問してイスラエルとの和解を売り込み、帰りにイスラエルに寄ってサウジの反応がどうだったのかネタニヤフに報告した。 

 

いまだにイスラエルは米高官を自由に動かせる。

 

米国はイスラエルの言いなりで、サウジにイスラエルとの和解を頼んでいるが、うまくいく可能性は低い。

 

米国の衰退が露呈している。

 

サウジが断っていると、イスラエルは譲歩していく。

 

イスラエルにとって、米衰退後の孤立は破滅だ。

 

いずれパレスチナ問題が進展する。

 

 

ロシアはイスラエルに味方する姿勢をとり続けているが、それと対照的に、中国は、イスラエルを批判するアラブ諸国パレスチナの側についている。 

 

中国は5月9日、イスラエルがガザを攻撃したことを非難する決議案を国連安保理で提案した。

 

この決議案は米国の反対(拒否権発動)によって阻止されたが、中国が中東和平問題でアラブやパレスチナの側に立っていることを改めて示した。 

 

 

5月15日には、国連総会が史上初めて、パレスチナ「ナクバ(大災厄)」を記念する会合を開いた。

 

1948年にイスラエルパレスチナ人から土地を奪って建国した前後に、75万人のパレスチナ人が家を追われて難民になった。

 

アラブ・パレスチナ側はこの事件をナクバと呼んでいる。

 

国連では以前、米国の影響力が強く、イスラエルに牛耳られてきた米国は、国連がナクバを記念することを許さなかった。

 

しかし近年は、中国が主導する発展途上の非米諸国が、米国や日欧など傀儡諸国を押しのけて国連で力を発揮している。

 

最近はサウジが中国に接近して米国側から非米側に転向し、サウジが率いるアラブ諸国が丸ごと米国覇権下から離脱し、国連を動かしてイスラエル批判を強めさせている。 

 

安保理は米国が拒否権を発動するので動かせないが、国連総会は多数決なので非米側が動かせる。

 

中国とサウジ・アラブが組んで、イスラエルに牛耳られた米国側を追い込んでいる。

 

その一例が、国連総会での史上初のナクバ会合だ。

 

 

習近平ら中国の上層部は以前から、パレスチナ問題を2国式(パレスチナ国家の完全な確立)で解決すべきだと明確に言い続けている。

 

対照的に、ロシアは以前から、この件について明確な態度をあまり示さない。 

 

ロシアでは、プーチンの側近群を含め、ロシアの経済や戦略部門にはユダヤ系が多い。

 

中国にはユダヤ人がいない。

 

この違いがイスラエルに対する中露の態度の違いだとも言い得る。

 

だが、中露が組んで世界を多極化しつつ握っている最近の状況下では、イスラエルに対する中露の態度の違いが別の意味を持ってくる。

 

それは、ロシアがイスラエルの側に立ち、中国がアラブやイランの側に立って、中東和平やイラン・イスラエル対立などの問題を解決していく「2人ひと組」の演技の戦略だ。 

 

 

中東のもう一つの対立軸だったサウジアラビアとイラン(スンニとシーア)との対立は昨年、習近平によって劇的に解消された。

 

和解したサウジとイランは今、協調体制を構築する蜜月に入っている。

 

サウジとイランは中国にとって、戦略的な味方・巨大な外交資産に変身した。

 

中東ではその後、シリア内戦の正式な終結が進められている。

 

シリア内戦ではイランとロシアがアサド政権を支援し、アサド敵視のサウジなどアラブ諸国と対立していたが、イランとサウジの和解をテコに、アラブがアサド敵視を取り下げて和解し、中露アラブイランの全員が仲良くなる構図が立ち上がっている。 

 

トルコも選挙が終わったら、エルドアン続投だとしても、この中に入ってくる。

 

 

取り残されるイスラエルが、目立たないようにロシアに頼り、自国に対する非難や敵対を軽減しようと思うのは当然だ。

 

露中やアラブは、イスラエルがイランを敵視するのをやめてほしい。

 

イランも、自国やパレスチナ人の尊厳が守られるならイスラエルと和解したい。

 

話し合いの余地は十分ある。

 

米国の中東覇権が消失するのは時間の問題だ。

 

米覇権が消失すると、イスラエル国内で中東和平を阻止してきた宗教右派(米国からのアリヤ=帰還者が多い)の政治力が弱まる。

 

イスラエルが譲歩できるようになり、パレスチナ問題が解決しうる。

 

ロシアはイスラエルの隣のシリアの制空権を持っており、イスラエル周辺が一定以上の戦争になることを防げる。

 

最近のイスラエル軍のシリア攻撃などの戦闘は、ロシアが容認しているから起きている。

 

中東は大戦争のハルマゲドンにならず、時間がかかってもいずれ中東和平が進む。 

 

 

全体的に、ロシアはイスラエルの相談にのってやりつつ、軍事と外交で中東の安定を維持している。

 

中国はアラブと組んでイスラエルを批判する側に立ちつつ、経済や外交で中東を支えている。 

 

露中は中東で、2人ひと組で演じる芸人や営業マンみたいなことをやっている。

 

中東に対する影響力は従来、ロシアの方が強かったが、昨秋のサウジ接近から中国の影響が急増している。 

 

 

米国自身も、自らの中東覇権の消失を加速する動きを隠れ多極主義的にやり続けている。

 

米政府は最近、ペルシャ湾への軍事展開を再び増やすことを決めた。

 

仇敵イランを取り締まるためだという。 

 

しかし実際は、中露がイランと結束しており、米国はもうイランを取り締まれない。

 

米国がイランを敵視するほど、中露アラブの全体が米国を危険視するようになり、米国を完全に追い出さないと中東が安全にならないと考える傾向を強める。

 

米国はシリア国内での軍事駐留もやめていない。

 

これも、中東諸国と中露に「米国の完全排除が必要だ」と思わせる。

 

米国が態度を軟化すれば、あと何十年か米国は中東にとどまれるのに、衰退しているのに軍事強硬姿勢を強めるので、アラブや中露が「早く米国を完全排除しよう」と思う傾向を強める。

 

米国の戦略は、イスラエルにとってもありがた迷惑だ。

 

まさに「隠れ多極主義」である。