中国が非米諸国を代表して人民元でアラブの石油を買い占める
https://tanakanews.com/221230china.htm
前回の記事で、中国の習近平が12月初めにサウジアラビアを訪問して、アラブ諸国の全体との関係を強化した話を書いた。
その後わかったのだが、習近平とサウジのMbS皇太子は、世界経済を根底からひっくり返すような内容の取り決めを結んでいた。
それは、サウジがこれまで輸出原油のすべてを米ドル建てで売っていたのをやめて、輸出原油の多くを人民元建てで、中国とその傘下の諸国に売る新体制に移行する話だった。
https://www.goldmoney.com/research/inflation-recession-and-declining-us-hegemony
習近平のサウジ訪問に合わせてアラブなど30カ国の首脳陣がサウジに結集し、習近平と会っている。
サウジだけでなく、UAEやクウェートなどペルシャ湾岸のアラブ産油国の全体が、ドル建てで米国側(米欧など)に売る石油を減らし、人民元建てで中国やその他の非米諸国に売る石油を増やすことを決めたと考えられる。
ドルの基軸性は多方面で低下しているので、この転換は不可逆的なものだが、転換に要する期間は数年とか10年がかりとかになりそうだ。
サウジアラビアは1974年以来、ドル建てだけで原油を輸出してきた。
米国は戦後の財政放蕩の結果、終戦時にブレトンウッズで決めた金本位制を守れなくなり、1971年の金ドル交換停止(ニクソンショック)で金本位制を放棄してドルの安値と信用失墜が加速した。
1974年の米サウジ協定は、失墜したドルの威信を取り戻すためのもので、サウジが原油をドル建てのみで売ることによって、ドルは石油の貴重さと結びついた通貨(ペトロダラー)の地位を確保し、見返りに米国はサウジを軍事的に守る安全保障を確立した。
このペトロダラー体制と、その後1980年代以降の債券金融システムの急拡大により、ドルは強い覇権・基軸通貨の地位を取り戻した。
だが米国は、2001年の911テロ事件以降、事実上サウジにテロ支援国家の濡れ衣を着せるなど、サウジを困らせることを連続してやり続けた。
米国は、2003年にイラクを侵攻・占領して失敗し、イラクをスンニ派支配の国からシーア派(イラン)支配の国に転換してしまったり、2011年からはシリア内戦を起こして失敗し、この地域でのサウジの影響力を低下させた。
同じ2011年には、米国がエジプトなどで「アラブの春」を誘発し、エジプトをサウジ傘下のムバラク政権からサウジの敵であるムスリム同胞団の政権に転換してしまった。
2015年にはイエメン戦争を起こしてサウジを泥沼のイエメン占領に陥れた。
(911テロ事件はサウジ人らの仕業でなく、米諜報界の自作自演の可能性が高い。侵攻される前のイラクのサダム・フセイン政権は、米国から制裁されていなかったら同じスンニ派としてサウジともっと仲良くできた。イエメン戦争は、イエメンに駐留していた米軍が突然撤退することで引き起こし、サウジはイエメンで泥沼の内戦介入に追い込まれた)
米国はイランに核兵器開発の濡れ衣を着せて敵視し続けたので、対米従属のサウジもイランを敵視せざるを得ず、米国の中東覇権が低下するほどイランが台頭し、サウジは不利になって馬鹿をみている。
これらの米国による中東政策の失敗の連続は、サウジに対する「意図的な嫌がらせ」とも感じられる。
サウジ王政は、911直後には米国に着せられた濡れ衣を黙認していたが、2015年に若いMbS皇太子が独裁的な実権を握った後、米国から離反する傾向を強めた。
中東の覇権は、自滅的に失敗し続けた米国から、イランやシリアなどに味方して優勢になった中露に移っていき、サウジも米国から離れた分、中露との戦略関係を強化した。
米国の中東覇権が低下しても、ペトロダラー体制は現在まで維持されてきた。
サウジは、すでに中国に対して原油を人民元建てで売っているふしがあるが、公式な話になっていないのでペトロダラー体制は崩れていない。
だが、今年初めにウクライナ戦争が起こり、欧米がロシアから石油ガスなど資源類を買わない対露制裁を開始し、中国など非米諸国がロシア側について、世界の資源類の利権の大半が中露・非米側に行き、G7諸国など米国側が持っているのは金融バブルだけという状況になるとともに、MbSのサウジは勝ち組になるため、非米側に入る傾向を一気に強めた。
そして今回の習近平のサウジ訪問で、サウジは石油輸出の中心的な通貨をドルから人民元に切り替えていくことを決めた。
50年に及ぶペトロダラーの歴史が終わり、ペトロユアン体制に転換していく流れが始まった。
サウジの石油輸出量は日産700万バレル台で、中国の石油輸入量は日産1000万バレル超だから、中国だけでサウジの石油を全部買い占めることができる。
そうでなく、中国はサウジの輸出石油の全量を人民建てで買い上げ、その輸入枠の一部を一帯一路やその他の非米諸国の転売することもできる。
サウジ以外の産油諸国(多くが非米側)やロシアなどOPEC+が丸ごとこのペトロユアン体制に参加し、非米側の全体が人民元建てで石油を輸出入するようになりうる。
世界の石油利権の大半は非米側にある。
先進諸国も、OPEC+から石油を輸入しようと思ったら、ドルでなく人民元を用意せねばならなくなる。
世界の石油は、中国側に買い占められていく。
米欧が、この流れを阻止するためにサウジと中国を経済制裁すると、米欧が買える石油がなくなってしまう。
ウクライナ戦争の対露制裁でロシアからの石油ガス輸入を止めたので、欧米とくに欧州が買える石油ガスが足りなくなっているが、それと同じことがもっと大きな規模でこれから起きる。
米国側のマスコミは、習近平がサウジ訪問時にペトロユアン体制を作りたいと表明したことを報道しつつも、それが実現するはずがない、ペトロダラー・米覇権体制が揺らぐはずがない、習近平が猛言しているだけだと「解説」している。
だが私から見ると、米覇権に対する超楽観論で猛言しているのはマスコミの方だ。
ウクライナ開戦後に対露制裁としてロシアからの石油ガス輸入を止めた 欧州はとても困窮している。
欧州の困窮を見るだけで、ロシアだけでなくサウジ(や他のOPEC諸国)の石油までもが米国側に来なくなったらどんなに困るか、簡単に想像がつく。
世界はウクライナ戦争開始後、米国傀儡のG7など先進諸国と、米国の言うことを聞かない傾向を強める非米諸国との分裂が一気に強まった。
世界のトップ20の産油国のうち、米国側は米加ノルウェー英の4か国しかない。
4か国の合計で産油量はトップ20全体の28%、埋蔵量では15%を占めるに過ぎない。
残りは非米側だ。
米国は、産油量で世界の20%近くを占めてダントツの世界一だが、国内消費が多いので他の先進諸国に輸出できる分は大したことない。
米国側の主な原油輸出国として加米英蘭豪があるが、この5か国の合計で、世界の原油輸出総量のうち18%を輸出しているに過ぎない。
産油量、埋蔵量、輸出量とも、非米側が世界の70-85%を占めている。
米国側と非米側の分裂が明確化・長期化するほど、米国以外の米国側諸国はエネルギー不足が深刻化する。
これがウクライナ戦争の最大の意味である。
中国がサウジ(などOPEC)を誘って人民元建てで石油を輸入するペトロユアン体制を具現化し始めたら、日韓ASEANなどアジアの(なんちゃって)米国側諸国は、非公式にペトロユアン体制に入り、中国から許しを受けてサウジから元建てで石油を輸出し続けるだろう。
「なんちゃって諸国」はすでに米国側の対露制裁を隠然と無視してロシアから石油ガスを輸入し続けている。
中国やサウジは「元建て」にこだわっているのでなく「失策と圧政だらけの米国の世界支配をやめさせるためにドル建てをやめること」にこだわっている。
だから中国が了承すれば、日本は円建てでサウジやOPECから石油を輸入できるようになるし、韓国はウォン建てで、インドはルピー建てで輸入できる。
サウジは外貨準備を多様化したいので歓迎だ。
この体制下で、中国とインドの対立も解消されていく。
なんちゃっての隠然非米化・非ドル化がどんどん広がる。
これからの日本は中国やサウジやロシアに媚を売らないとエネルギーを売ってもらえなくなる。
だが、マスコミはそのような状況を全く報じず、むしろ逆に、中露やサウジを独裁だ残虐だと酷評してボロクソに報じている。
酷評して今だけ気持ちいいかもしれないが、これからとても困るのだということを無視している。
大馬鹿である。
マスコミ権威筋が無視するので、非米化は隠然と進む。