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“森友事件”このままでは終わらせない 21 ~Netflix版『新聞記者』がすごい~

 

Netflix版『新聞記者』の踏み込みがすごい! 綾野剛が森友問題キーマン官僚に、安倍御用ジャーナリストはあの人が…
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動画配信大手のNetflixで13日から世界独占配信がはじまったドラマ『新聞記者』(全6話)が、大きな話題を集めている。

この作品は、東京新聞の望月衣塑子記者の著書を原案とし、シム・ウンギョンと松坂桃李のダブル主演で2019年に公開され、日本アカデミー賞を受賞するなど話題を集めた映画『新聞記者』のドラマ版で、映画と同じく藤井道人監督がメガホンを握ったが、

 

 

今回のNetflix版では森友公文書改ざん問題をメインテーマとして扱い、映画版以上に中身の濃い仕上がりに。

 

あの「私や妻が関係していたということになれば、それはもう私は、それは間違いなく総理大臣も国会議員も辞めるということははっきり申し上げておきたい」という、公文書改ざんの起点となった安倍晋三相の発言もしっかりと登場する。


 

そして、配信からわずか1週間も経たないうちから、SNS上でも評価の声が次々に投稿され、Netflix「今日の総合TOP10」ランキング(日本)では堂々の1位に。

 

23日現在も『パラサイト』のチェ・ウシク主演の韓国ドラマ『その年、私たちは』に次いで2位にランクインしている。

だが、それも当然だろう。

 

まず、驚かされるのがキャストの豪華さだ。

 

官房長官会見で質問妨害に遭っても粘り強く質問を重ね、ネット上で「炎上記者」と呼ばれている主人公・東都新聞の松田杏奈記者を演じるのは、『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』(テレビ朝日)シリーズでおなじみの米倉涼子

 

“反骨の強い女性”という米倉が得意とする役柄だが、今回はオーバーな演技は抑えられ、人の痛みに寄り添おうとする繊細な心情表現に挑んでいる。

 

 

また、森友公文書改ざん問題にスポットを当てている今回のNetflix版『新聞記者』では、公文書改ざんを命じられ、自死するにまで追い込まれた近畿財務局の職員・赤木俊夫さんをモデルにした中部理財局職員・鈴木和也を『北の国から』シリーズで知られる吉岡秀隆が、妻の鈴木真弓を寺島しのぶが演じている。

 

吉岡・寺島ともにその演技力は折り紙付きだが、とりわけ国家公務員として矜持を持つ鈴木が、国家的犯罪を押し付けられ、心身ともに蝕まれていく様には、視聴者の胸を締め付けると同時にこの事件の重さをあらためて突きつけている。

また、奨学金のために新聞配達をしながらも新聞の読み方がわからず、政治や社会問題に関心がない大学生・木下亮を、人気の若手俳優横浜流星が好演。

 

就活中のどこにでもいそうな大学生が、国家を揺るがす大事件に絡み人生を左右される展開は、ドラマのもうひとつの大きな軸となっている。

だが、Netflix版『新聞記者』で驚嘆させられるのは、現実の事件に関与していた人物がモデルになっていることがとはっきりとわかる登場人物を、日本映画界・ドラマの第一線で活躍する豪華俳優たちが演じていることだ。

その筆頭が、綾野剛だ。

 

綾野が演じるのは若手エリート官僚で、内閣総理大臣夫人付き秘書である村上真一。

 

本サイトの読者であるならばすぐにわかるだろうが、綾野の役のモデルとなっているのは、安倍昭恵氏の秘書として森友学園への国有地売却をめぐり2015年11月に財務省国有財産審理室長の田村嘉啓氏に“口利きFAX”を送るなどの役割を担っていた政府職員・谷査恵子氏なのだ。



綾野剛が演じる森友問題のキーマン官僚 忘れられた安倍昭恵首相夫人付き・谷氏をクローズアップ
 

谷氏といえば、森友学園籠池泰典・前理事長が谷氏の“口利きFAX”以降に「非常に瞬間風速の速い神風が吹いた」と語ったことによって国有地売却問題のキーマンとして大きな注目を集めたが、すると、安倍官邸は谷氏を2017年8月にノンキャリアとしては異例の在イタリア大使館1等書記官に栄転させてしまった。

 

つまり、公文書が改ざんされていた事実が判明したのは“高飛び”後だったため、谷氏は国有地売却への昭恵氏の関与を裏付ける重要なキーマンであるにもかかわらず証人喚問されることもなく現在に至っている人物なのだ。

イタリアに栄転したために国会で追及を受けることもメディアに張り付かれることもなかったためか、森友問題に特段の関心がない人にとってはもはや忘れられた存在になっている谷氏。

 

しかし、公文書を改ざんするまでにいたった国有地売却の問題の真相究明は、谷氏の追及なくして考えられないものだ。

実際、2018年に公文書が改ざんされていたことが発覚し、改ざん前文書が開示されたことによって、谷氏はFAXのみならず、財務省理財局に電話で安倍総理夫人の知り合いの方から優遇を受けられないかと総理夫人に照会があり、お問い合わせさせていただいた」と伝達していたこと、田村氏が谷氏に折り返しの電話をかけていたという重要な事実が判明。

 

このとき安倍首相は「値下げをしてくれ、優遇してくれということではなく、制度に関する問い合わせ」などと強弁していたが、その後、日本共産党の辰巳孝太郎・参院議員(当時)が国会で突きつけた国交省大阪航空局作成の内部文書によって、じつは谷氏が田村氏に対して「新聞報道であった介護施設に対する賃料引き下げの優遇措置を小学校にも適用出来ないのか」「貸付料の減免、土壌汚染対策工事中の免除等はできないのか」などと具体的に照会していたことが明らかになっている。

つまり、森友に約8億円もの値引きがおこなわれた背景には、時の総理として絶大な権力を振るっていた安倍首相の夫人である昭恵氏の存在があり、その代理人として直接、働きかけをおこなっていたのが氏だったのである。

そして、Netflix版『新聞記者』では、多くの人の記憶から消えかかっている谷氏をモデルにした村上を重要人物としてクローズアップし、フィクションとしての脚色を施しながらも、あらためて谷氏が森友問題のキーマンだということを再認識させようとしているのだ。

しかも、その役を演じるのは、綾野剛という実力派の人気俳優──。

 

映画版『新聞記者』も官邸と一体化した内閣情報調査室の暗躍ぶりを描くなど政権批判に踏み込んだものだったが、松坂桃李が熱演した主人公のひとりであるエリート官僚役はあくまで特定のモデルのいないフィクションの役柄だった。

 

しかし、Netflix版『新聞記者』で綾野が演じるのは総理夫人付き秘書という個別具体的な設定であり、森友問題が「総理案件」で公文書改ざんは「官邸主導」だったとしか考えられないことをはっきりと指し示す役割なのだ。

 

この役を綾野が引き受け、演じているという事実ひとつだけでも、本作の“ありえないすごさ”を表しているだろう。



政権御用ジャーナリスト・山口敬之氏を彷彿とさせるユースケ・サンタマリア
 

だが、本作でもうひとり注目すべき登場人物は、ユースケ・サンタマリアが演じる豊田進次郎だろう。

豊田は五輪招致にもかかわる新報エージェンシーに所属しながら内閣官房参与として政権に多大な影響力を誇り、総理補佐官の中川久志(佐野史郎)や内閣情報調査室の多田智也(田中哲司)とはツーカーの仲。

 

首相の素顔を伝えるヨイショ本を執筆したり、テレビではコメンテーターとして政権擁護を繰り出しているが、じつは豊田はAI技術の開発に深く関与し、経産省から出ていた多額の助成金をめぐって逮捕状が出されながらも、逮捕直前で取りやめになるという疑惑があり……という人物だ。

これまた現実に安倍政権下で暗躍したさまざまな人物や事実を下敷きにした脚色が施されてはいるが、この豊田という人物のモデルの核となっているのは、あきらかに山口敬之氏だろう。

ご存知のとおり、山口氏といえば、元TBS記者として「安倍首相にもっとも近いジャーナリスト」と呼ばれていた人物で、安倍首相の礼賛本『総理』(幻冬舎)を出版したり、森友学園問題でもワイドショーに出演しては官邸が流したと思しきデマ情報を喧伝するなど政権擁護の尖兵役を担っていた。

 

さらに、伊藤詩織さんが告発した山口氏から受けたという性暴力をめぐる事件では、伊藤さんの相談を受け捜査を担当していた高輪署の捜査員が逮捕状を持って成田空港で山口氏の帰国を待ち構えていたにもかかわらず、逮捕直前に警視庁刑事部長の指示によってストップがかかっていたことが判明。

 

その上、この問題について「週刊新潮」(新潮社)が山口氏に取材をかけると、山口氏がその対応を内閣調査室のトップで“官邸のアイヒマンとの異名を持つ北村滋内閣情報官(当時)に相談していた可能性まで指摘されている。


 

しかも、Netflix版『新聞記者』では、前述したように豊田はAI開発の助成金問題をめぐる疑惑を抱えているという設定だが、山口氏も「第3の森友事件」と呼ばれたスーパーコンピュータをめぐる助成金詐取事件でも名前が取り沙汰された。

 

それは経産省所管法人からの助成金4億円超を詐取した容疑でスパコン開発会社「ぺジーコンピューティング」の齋藤元章社長が逮捕された事件で、山口氏が齋藤社長と昵懇の間柄であったことや同社の顧問を務めていたことが判明。

 

山口氏が安倍首相や麻生太郎財務相(当時)など政権中枢に食い込んでいることから、事件の背景に官邸の関与があったのではないかという疑惑が囁かれた。

このように、政権をめぐって実際に起こった事実や疑惑を、フィクションを交えながら組み合わせ、生まれたのが、ユースケ・サンタマリア演じる豊田というキャラクターなのだ。



現実はドラマよりひどい! 赤木さんへの1億円国賠で森友改ざんを強引幕引き
 

劇中で横浜流星が演じる大学生のように、ニュースに関心がない、あるいは御用メディアの報道にしか触れてこなかった視聴者にとっては、Netflix版『新聞記者』は「こんなことあるわけがない」「現実離れしたフィクション」に思えるかもしれない。

 

しかし、綾野剛演じる総理夫人付き秘書が国有地売却をめぐって働きかけをおこなったことも、逮捕状がもみ消されるほど政権に近い人物がテレビに登場しては政権の擁護を繰り返していたこともたしかな事実なのだ。

なによりも、吉岡秀隆が演じる鈴木和也が、強大な権力による公文書改ざんの強要に対し、はっきりと異を唱えて抵抗したこと、それでも良心を踏みにじる行為を強いられ、追い詰められ死にいたるという痛ましい流れは、この国に起こった紛れのない事実であり、さらには死にまで追い詰めた公文書改ざんの真相は、いまだに明らかになっていない。

 

いや、ドラマ以上に現実は下劣で、赤木俊夫の妻・雅子さんが起こした国家賠償請求訴訟では、国側がいきなり認諾し、1億700万円の賠償金を支払うことで裁判での真相究明を強引に幕引きするという、国民の税金である札束で赤木さんの頬を張る行為を平然とおこなったばかりだ。

 

 

しかし、このような腐敗しきった事実を、この国のメディアは徹底的に追及しようとはせず、それどころか風化させようとさえしている。

 

そんななか、こうした事実を真正面から取り上げてエンタテインメントに昇華させたNetflix版『新聞記者』が果たす役割は、あまりに大きいものだ。

実際、本作はNetflixで世界に配信されているが、英・ガーディアン紙は〈この日本のドラマの政府は私たちの政府よりも腐敗していますか?〉というタイトルでレビューを掲載。

 

5つ星中3つ星をつけて、このように評している。

〈ドラマ後半は、日本が国民の無関心によって不正の沼に陥っている国だと明確に示している。

より良い政治を求めるなら、一人ひとりが個人として声を上げなければならない、このドラマはそう言っている。

『新聞記者』はナイーブでセンチメンタルなところもあるかもしれないが、この点については間違っていない。〉

あなたはこの不正に無関心でいられるか──。

 

あらためて視聴者にそう突きつけるNetflix版『新聞記者』。

 

自民党政権が維持され、メディアも事件を風化させていっているという現実は悲惨極まりないが、そんななかにあっても、日本を代表する俳優たちが結集し、このような作品がいま生まれたことの奇跡を、ぜひひとりでも多くの人に体験してほしいと願うばかりだ。