メディアの構造問題
2007年12月10日
2007年12月10日
1.日本のメディア機能
もし、メディアが根こそぎやられてしまっていたらどうなるのか。
結論から言ってしまうと、根こそぎやられている。
どういう構造が背景にあるのか。
たぶん驚くが、その驚くところが実は非常に重要なポイントです。
メディアが根こそぎやられていることを知る手段は、基本的にありません。
とにかく、根こそぎですから。
コミュニティでは、独自のネットワークが働いている場合もあるかもしれませんが、もっと行政レベルまで広げたとき、政治、経済、社会…スポーツも、それらの100%に近い情報は、メディアを通じて知っているのではないかと思います。
メディアの業界用語で「チャンネル」と言いますが、そういうパイプを通じて入ってきた情報を元にして、自分たちの世界、あるいは地球がどういう状況になっているのかを知る。
世界観が形成されている側面が、どんなにメディアに対して不信感をもって臨んでいたとしても、それが否めないという前提を、まず最初に自分の中で自問自答していただきたい。
メディアには二つの重要な側面があります。
ひとつは、メディア以外の業界に何か大きな問題があった場合、ほとんどメディアを通じてそれを知る。
問題は、メディアに問題があった場合です。
メディアが自分で自分たちの問題を伝えない限り、世の中に出てこないということです。
もうひとつは、世界中のメディアがインチキをやっていて自分の悪いことを言わないかというと、そうではありません。
ところが、日本の場合、かなり極端にひどい状況になっている。
特異な状況になっています。
メディアがしっかり機能して情報が行き渡らなければ、民主主義が機能しないことは、多くの国で非常に幅広く、強く認識されている。
だから日本以外の国は、アメリカも含めて、メディアが巨大になりすぎたり、メディアの力が少数に集まりすぎたり、資本が独占されたり、寡占されたりすることを規制するルールや法律を、たくさん持っています。
しかし、日本はこれが全然ありません。
英語で「クロスオーナーシップ」という言葉があります。
同一資本が新聞とテレビを同時に保有することを言います。
東京のチャンネルでいえば、4、6、8、10、12の5局が、それぞれ新聞と組んでいます。
この五局プラスNHKが、それしか言論機関がないといってもいいほど、世論に対する影響力、情報量、あるいは伝播力で突出しています。
それから、共同と時事通信社があります。
地方紙は東京の全部の役所に記者を置くことができないので、ほとんどこの二社の記事を使います。
これらの日本のメディアの主になっているグループのことを《16社体制》と言い、ほとんどの政治情報、経済情報、特に行政情報は、この16社を通じてしか外に出ない状態になっています。
3.記者クラブ体制
次に問題なのが、記者クラブ体制です。
それぞれの役所で専門誌などが少し入ってきたりしますが、基本的には16社をクラブ用語で《常駐社》と言います。
記者を常駐させ、行政機関から出てくる情報を逐一、自分の新聞なり通信社に配信しています。
問題は、記者クラブが非常に排他的な組織で、クラブ員以外は記者会見の場に行けないとか、発表内容の刷り物をもらえないなど、談合的な体質の中でやっている。
つまり、馴れ合いになるということです。
そこにいること自体が、アドバンテージになってしまっている。
行政から情報をもらっている状態なので、対等ではなくなってしまう。
筆が鈍るのも当たり前です。
4.再販価格制度
三つ目に、再販価格制度があります。
これも、日本の構造問題の中で、重要な問題ですが、ほとんど知られていません。
なぜなら、メディアが全部、軒並みそれのお世話になっているからです。
新聞は新聞社間で、この値段以下で売るのはやめようと話し合って決める。
しかし日本の場合は、世界に冠たる1千万部の読売新聞、それを900万部で追う朝日新聞。
自社の高層ビルが汐留に建つような状況で、いまだに再販価格制度というシステムで保護されているという実態があります。
5.新規参入を拒む現状
まず、16社体制と言いましたが、基本的には五系列のメディアを中心とした独占状態をつくっているのがひとつです。
それから、再販や記者クラブ制度によって、新規参入がほとんど不可能になっているのがもうひとつ。
アメリカで、新しいメディアが出来ると、優秀な人材がワッと入ってきます。
ところが日本は固定化された寡占状態の中で、空前の繁栄を誇っています。
テレビ広告市場を事実上5社で独占できるわけですから、ものすごくズブズブのコスト構造で、効率も悪いが、それでも儲かる。
全社が、上場企業。
非常に収益力もあるので、新しくメディアが参入するということは、あり得ない状態です。
テレビ局なら、30歳で年収1200万ぐらいが当たり前。
40歳手前で2000万ぐらいです。
そういう収入で、仕事もきつくない。
本人たちは、拘束時間が長いだのと言うけれど、はっきり言って日本の中で最も競争力の低い業界のひとつです。
でも、それは当たり前でしょう。
競争がなくて、新規参入がなくて、何で競争力が維持できるのか。
だから、低い競争力で、非常にモラルも低い中で、給料だけはいいから、誰も辞めないわけです。
6.アメリカもクロスオーナーシップ解禁
去年の夏、イラク戦争よりもっと深刻かもしれないことがありました。
つまりイラク戦争が起きていることも、世の中知らなくなるかもしれないという話です。
戦争のディテールは一切出てこない可能性がある。
クロスオーナーシップの解禁は、メディア側にとっては十分に合理性のあることで、経営も効率化できるし、お互いに宣伝しあえる。
だからこれからどんどん進む…、アメリカもついに行くところまで行ってしまった。
トーマス・ジェファーソンも泣いています。
ちなみに、大統領候補の一人であるジョン・ケリーも、これをもう一回復活させることは明言していません。
また、これが日本で全然報じられないのが面白い。
ワシントン特派員は、原稿を書いても絶対出ないことが分かっている。
日本こそクロスオーナーシップじゃないかという話です。
クロスオーナーシップ、記者クラブ、それから再販が、強烈な保護策となっていて、メディアが単に空前の独占的な繁栄を享受できるばかりでなく、競争原理がまったく働かない。
おまけに、クラブ等で癒着をしていますから、当然出てくる情報はバイアスがかかる。
再販価格制度というのは、当然日本の場合は廃止になっていなければおかしい制度です。
特に新聞がその保護対象になるのはあり得ないことで、昨年、日本の公正取引委員会による見直しがありました。
当然、新聞各社は、再販保護、再販弁護の大キャンペーンを張りました。
問題はここです。
テレビが再販問題を扱った記憶がありますか。
ニュースステーションあたりで、「再販とは」みたいなビデオが出来てもいい。
それがなぜ出来ないのか。
だから再販なんていうことは、テレビは絶対やりません。
やりたくてもできないんです。
7.BSEに見る日本メディアの構造
9月6日の会合で、役人が最初に用意してきたのは、「20ヶ月未満の牛については検査に限界がある」という文言でした。
それに対し、学者たちはそんなことは口が裂けてもイエスと言えない。
〝ダメだ"と。
しかし役人は、アメリカのトップから日本のトップにお願いがあって、落としどころは決まっている。
大統領選挙までに何とか再開したいわけです。
そこで次に出してきたのが、「21ヶ月と23ヶ月の牛にBSEが見つかったのを認識する」というのはいいかと。
恣意的に歪めることは今までにもあるけれど、今回の場合は歪めじゃない。
明らかに嘘です。
新聞記者は、学者に個別取材して事実を知っていながら確信犯的にあの記事を書いているから厄介です。
もうひとつ、補足になりますが、再販と記者クラブ制度は、表裏一体の関係にあります。
再販によって日本では極度に高いレベルの宅配制度が維持されています。
それ自体は悪いことではないが、競争原理が働きにくい。
宅配であれば、各社とも新聞の一面に何を出すかで勝負するということにはなりません。
クラブにいれば、情報に優先的にアクセス出来る。
一歩先んじることはできないが、自分だけ落ちることもない。
競争にさらされることもない。
これが、クラブにいることの報道機関側から見た合理性です。
クラブに拘束されることのデメリットが最小化されているわけです。
メリットは享受できるわけだから、表裏一体の関係にあるといえます。
それ以外の選択肢は、事実上ほかにないというわけですから、非常に嫌な話です。
けれど、この問題はそう簡単に解決策はありません。