忘れられた経済学者・シルビオ・ゲゼル。
「すべての自然物が、摩耗、劣化してなくなっていくにもかかわらず、お金だけは、時間とともに自己増殖を続けていく。
これが、現代社会の問題の根源にある」と彼は言っています。
20世紀初頭、ゲゼルは、こう考えて、時間と共に劣化する通貨を構想しました。
やがて、ゲゼルの通貨は、第一次大戦後の経済的混乱の中で、オーストリアのヴェルグルという町で実践されました。
ヴェルグルでは、失業対策として様々な公共事業をつくりましたが、その労働の対価として、「労働証明書」を発行しました。
この労働証明書は、お金として流通できましたが、毎月、スタンプを購入して張らないと使えないようにして、時間とともに価値が減じる性質をもたせたのです。
時間が経つと目減りするお金は、通常のお金の十倍以上のスピードで流通するようになりました。
すると、町の経済は見る見るうちに回復し、あっという間に、完全雇用が達成されたのです。
ヴェルグルの成功を見て、近隣の自治体も次々とこの通貨の導入を検討しました。
ところが、通貨の発行は、中央銀行の専権事項であるとして、自治体による通貨の発行は、全面的に禁止されてしまったのです。
ヴェルグルの町は再び失業者であふれてしまいました。
紙幣は、そもそも金を保管した際に発行する預かり証でした。
やがて、金は、倉庫から滅多に引き出されず、預かり証がお金として流通するようになると、預かり業者は、金の保管量を超えて預かり証を発行し、金利をとってそれを貸し付けるようになりました。
これが近代銀行制度の始まりと言われています。
私たちは、誰かが働いて貯めたお金を預けたから銀行があると思いがちですが、実際はそうではありません。
お金は、無から生まれ、借金として社会に流通していきます。
金利分のお金はどこにもないので、借金返済のために、お金の奪い合いが始まり、激しい競争の中で、多くの人が返済不能となり、通貨の発行元にすべての富が集まっていきます。
「私に通貨発行権を与えなさい。そうすれば、誰が法律を作ろうとも大した問題ではない」
と。
これは、ロスチャイルド家の創始者、マイヤー・アムシュル・ロスチャイルドの言葉だと言われています。
17世紀末に生まれたイングランド銀行が最初の中央銀行ですが、これは、長引くフランスとの戦費で財政がひっ迫していたイングランド政府の弱みに付け込むような形で、銀行家達が、国の経済と財政を支配するためにつくったものでした。
それから、世界各国に中央銀行が作られていきます。
特に、アメリカ合衆国では、通貨発行権をめぐる政治家と銀行家の壮絶な争いがつづきました。
銀行家達に対抗して、独自の政府紙幣を発行したリンカーン、そして、ケネディは、暗殺されました。
それから、新たに政府紙幣を発行する試みは行われていません。